個人事業主の相続は少し複雑です。そこで個人事業主が相続を行う上で、重要なポイントをご紹介します。

個人事業主の財産は個人のものになる!相続も面倒に

事業をするにあたって会社を設立している場合、会社財産と個人の財産は、もちろん区別されることになっています。
とはいっても実際のところは、会社財産もほとんど自分のもののように扱っている場合も少なくないでしょう。

しかし、あくまでも所有者が「会社」であればその財産は、相続財産には分類されません。
仮に相続が発生したとしても、所有名義を変更する必要は一切ありません。
つまり、そもそも「相続」とは異なるというわけです。

一方、個人事業主の場合は事業用の財産であったとしても、それらは全て個人の財産になります。
相続法定相続税の課税対象になり、名義を変更しなければなりません。

事業を誰かが引き継ぐとなった場合は、どれを事業に使用するのか、どれが個人用になるのか、一つ一つ分類していくだけでも非常に面倒になります。
相続も考慮するなら、できるだけ早く業務情報を共有できる「業務管理簿」を作成・チェックしておくべきでしょう。

個人事業主の相続には債務も含まれるので注意!

個人事業主であれば、事業用財産にも相続税が課せられることになっています。
仮に会社を設立していたとしても、会社の価値に見合った株を個人で所有する仕組みです。そのため、大きな違いはないように感じるかもしれません。

例えば、業務者や業務用機器などは、よほど破損等していなければ価値はそこまで下がりません。
しかし会社の株価は会社の価値に比例しますので、株価を下げるのは比較的簡単なことなのです。
利益を引き下げるようにして会社の価値自体を下げるのも、スムーズに事業を引き継ぐ一つの方法になります。

また事業において債務が残っている場合は、個人事業主はその債務の相続もしなければなりません。

金融機関からお金を借りているなら、すぐに「どこの銀行からどれだけのお金を借りているのか」を判断することができます。
しかし買掛金(未払いの代金)といった類であれば、今どのくらいの買掛金があるのか、正確に判断するのはなかなか難しいものです。

いざ相続してみると想像以上に多額の債務があり、その返済に苦しめられるということもあり得ます。

そのような事態を避けるには、やはり先程も説明したように事業内容がすぐに把握できる業務管理簿を作ると良いでしょう。どこからどれだけのお金を借りているのか、素早く簡単に把握できるようにしておく必要があるのです。

相続を放棄できるのは、相続人であることを知った日から3ヶ月以内と定められています。
多額の債務が発覚したものの、結局3ヶ月が経過してしまっているために放棄できないということも十分にあり得るのです。

そのような万が一の時の備えとして、生命保険は非常に役立ちます。もし多額の債務を背負ってしまったとしても、現金で精算できる場合もあるのです。

個人事業主から相続手続きをする時の流れを確認!

個人事業主相続手続き

個人事業主が死亡した場合は、相続人はどういった手続きをすれば良いのでしょうか。
手続きの流れは、遺言書があるのかどうか、後継者がいるのかどうかによって大きく異なります。

基本的には、次のような流れで相続の手続きが行われます。

1. 相続人や資産について情報収集する

まず、相続人が出生してから亡くなるまでが記載された「戸籍謄本」の収集など、様々な調査を行います。
相続人は誰になるのかということを確認し、それを証明するために戸籍謄本の情報を集めるのです。

戸籍謄本は、本籍地の市区町村役場に請求すれば取り寄せられます。
つまり本籍地が遠方にある場合や、相続関係自体が複雑な場合は、戸籍謄本などの書類を揃えるのに時間がかかってしまうでしょう。

また、相続人は基本的に実子、親、姉弟といった順番で決定されていきます。
もちろん配偶者がいるのであれば、配偶者も相続人のうちの1人となります。

次に相続財産を棚卸していきます。
戸籍謄本などの情報を集めるのと同時に、「個人事業主の個人資産もしくは事業用資産がどの程度あるのか」ということを確認するのです。

金融機関における借入の金額や取引先への買掛金といったことを全て把握しなければなりません。また、業員の賃金の支払等がしっかりと行われていなかった場合は、早急に確認し対処しましょう。

2. 資産分割協議で相続分を決める

相続人や個人事業主が持っていた財産などが明らかになったら、次に「遺産分割協議」が行われます。
これは簡単に言えば、「どの相続人がどれだけの財産を引き継ぐのか」ということを、相続人全員が話し合うことです。

資産分割協議は相続人全員で行い、相続財産は相続人以外が承継することはできないと定められています。
共同経営者がいても相続人でなければ、仮に事業に使用するための資産であったとしても資産を受け取ることはできません。

また、資産の分割に対し効力の高い「遺言書」がある場合は、分割協議を行うまでもなく遺言書で指定されている通りに相続することになります。

相続トラブルを回避するために個人事業主がしておくべき2つのこと

弁護士に依頼

個人事業主の死亡によって相続人が行う相続手続きは、非常に複雑で大変なものです。
相続税に関する申告、様々な名義変更など、専門的な知識も必要になるでしょう。そのため、やはり税理士、司法書士といった専門家に手続きを任せることも一つの方法です。

また、相続手続きによって、残された家族の関係がギクシャクしてしまうケースも多いものです。
そういったことがないよう、残された家族のために個人事業主がしておくべきことがあります。

1. 遺言書を作成しておく!

まず、絶対にしておくべきことは「遺言書の作成」です。
ただし、ただ紙に記しておくのではなく、行政書士や専門家を交えて公正役場で作成する「公正証書遺言」がおすすめです。効力が高く、遺言書にしっかりと則った資産分割が行われるでしょう。

2. 業務管理簿をしっかり作成しておく!

そして業務管理簿の作成も忘れてはなりません。
例えば何かを作る仕事をしており、その作業が進行している最中に個人事業主が亡くなってしまうこともあるでしょう。

そうなると、発注者に大きな損害を与えてしまいかねません。
死亡してしまったことで業務が途中で滞ってしまい取引先との取引が全てなくなってしまえば、事業自体ができなくなってしまう可能性もあります。

そのため業務管理簿を作成する、常日頃から万が一の事を考えて、業務はすべて属人化させないようにする、従業員と情報を共有するといった対策も必要です。

個人事業主は一般的な企業とは異なり、比較的規模が小さな事業を行っていることが多いです。
そのため、ささいなことで倒産に追い込まれるほどの打撃を受けてしまいます。

事業主の遺産相続によって、事業自体が駄目になってしまうのはあまりにも皮肉な話です。
そのようなことにならないためにも、こちらでご紹介した内容を参考に備えるべきことはしっかりと備えておきましょう。