「私が死んだらこの家はあなたにあげる」「俺の財産は全部お前にやる」など、被相続人、つまり亡くなった人が言っていた言葉が相続の際に問題になることはよくあります。

ではこの生前に口約束をされた人が相続権を得ることはできるのでしょうか。

口約束は遺言ではない

結論から言うと、「私が死んだらあなたにあげる」などの口約束は遺言にはなりません。そのため、遺言書がなく、夫や妻、その子などをはじめとする法定相続人がいる場合は、法定相続人以外の人には遺産を相続する権利はないのです。

口約束は無意味ではなかった!死因贈与って?

基本的に遺言書がなく口約束のみの場合、相続権は認められません。

しかし、だからといってその口約束が全く無意味なものかというと、そうではないのです。
「私が死んだらあなたにあげる」は死を原因として発生する「死因贈与」にあたり、この死因贈与であれば財産を相続できる可能性があります。もし被相続人が贈与の意思を伝え、言われた側が受け取りの意思を示していれば、双方の合意によって契約が成立します。

ただし、死因贈与が認められるためには2つの条件があります。この条件を両方クリアしていないと認められません。それではこの条件について詳しく見てみましょう。

死因贈与が認められる条件1「証人の有無」

被相続人が言っていたことを主張するだけでは死因贈与として認められることはありません。死因贈与が認められる1つ目の条件は証人がいるかどうかです。

生前に被相続人が「私が死んだらあなたにあげる」と言っていたその現場を第三者が見聞きしており、その人が証人となってくれることが必要となります。この証人は、被相続人に贈与の意思があったことを証言できるのであれば親族でなくてもかまいません。友人や近所の人でも良いのです。

また、証人がいない場合であっても、双方の意思について証明する書面があればこの条件を満たしていると認められます。遺言の場合は、被相続人の一方的な意思により財産を特定の人に相続させる手続きになる為、相続人の実印や印鑑証明は不要です。

しかしこの死因贈与の場合は寄贈者と受贈者双方で結ばれる贈与契約とみなされる為、双方が合意した上でその証明として書面に捺印をしていることが条件となります。

死因贈与が認められる条件2「相続人全員の承諾」

全員一致
死因贈与が認められる2つ目の条件として、相続人全員の承諾が必要です。場合によっては名義変更が必要となり、その際には相続人全員の実印と印鑑証明が必要です。相続人全員の実印と印鑑証明を取得することによって、相続人全員から承諾を得たとみなされます。

死因贈与のメリット

例えば配偶者や子どもがいる寄贈者(被相続人)が、自分の実の兄弟に土地を渡したいという場合も考えられます。しかし通常の相続手続きでは、法定相続人の順位として配偶者や子供が実の兄弟より上になります。

そのため一旦その土地を配偶者や子供が相続し、その後に兄弟に贈与をするという手順が必要です。この場合、配偶者や子どもが相続する際には相続税、さらに兄弟が贈与を受ける際には贈与税が課されます。

しかし、死因贈与の場合は、この寄贈者の土地は直接兄弟が受け取ることができるため、贈与税はかからず相続税のみが課されるのです。

また、死因贈与には「放棄」がなく、寄贈者と受贈者の双方が合意した上で契約が成立している為、寄贈者の死後には必ず受贈者が財産を受け取ることができます。したがって寄贈者にとっては自分が指定した相手に確実に財産を渡すことができるのです。

死因贈与のデメリット

死因贈与のデメリットは、契約内容を撤回できない場合があることです。寄贈者が亡くなる前であれば、寄贈者のみの意思で契約を撤回することはもちろん可能です。しかし、負担付死因贈与の場合は撤回が難しい場合があります。

負担付死因贈与とは、例えば「自分の面倒を見てくれた人に財産を渡したい」といった場合に、受贈者へ「○○してくれたら」という負担や義務などを条件に加えた死因贈与のことをいいます。この負担付死因贈与の場合は受贈者が負担や義務を履行してしまうと、特別な事情がない限り契約を撤回することができないので注意が必要です。

やはり「遺言書」を書きましょう

遺言書を書く
遺言書が無い場合の口約束であっても、条件を満たせば「死因贈与」により法定相続人以外の人にも相続権が発生することはわかりました。

しかし被相続人が「自分の死後はこの人に財産をあげたい」と思うのであれば、やはり遺言書を書いておくことで確実かつ残された人たちへの配慮にもなるでしょう。日本の法律において、被相続人の意思を尊重する遺言相続は法定相続より優先されるのです。

遺言書があれば相続人以外の人にも「遺贈」できる

遺言書が無い場合は、定められた順位に応じて法定相続人に相続されることになっています。したがって配偶者や子、親などがいる人が「かわいい孫に預貯金をあげたい」「弟に株式を分けたい」といった場合は、遺言書が必要となります。

このように遺言により誰にどのような財産を相続させるかを決めることを「遺贈」といいます。ちなみにこの遺贈には「○○の土地は△△にあげる」や「○○銀行にある預金は□□にあげる」といったように、特定の財産を相続する人を遺言によって定める「特定遺贈」と、「財産の○分の1は相続人の△△にあげる」といったように相続分を割合で定める「包括遺贈」の2種類があります。

「特別縁故者」であれば遺産を受け取れる?

通常の相続では遺言書が無い場合は上記のように法定相続人が上位から順に遺産を相続することになっています。しかし中には生涯独身であったり、親族全員が既に亡くなってしまっていたりして、法定相続人がいない人もいます。

このように法定相続人がいない場合でも、内縁関係にあったり、介護していたりした人は「特別縁故者」となり遺産を受け取る可能性があります。

特別縁故者には規定があり、「被相続人と生計を共にしていた人」「被相続人の療養看護に努めた人」「被相続人と特別の縁故があった人」などが該当します。ただし特別縁故者になるには、家庭裁判所に申し立てを行い、裁判所から認められる必要があり、また、財産分与の程度についても裁判所の決定が必要となります。

遺言書があれば法定相続人以外の人にも遺贈ができるので、もし法定相続人以外の人に財産を相続して欲しいのであれば、口約束だけではなく遺言書を作るようにしましょう。

また、法定相続人以外の人が「私が死んだらこれはあなたにあげる」と言われたり、法定相続人であっても「これは全部お前にやる」などと言われたりした場合は、被相続人の意思を尊重する為にも、是非遺言書を作ってもらうようにお願いしましょう。