海外在住者が相続手続きをする際は、不安が伴うもの。
「日本に住民票がないと、遺産分割ができないのではないか?」
「面倒な手続きを踏まなくてはならないのではないか?」
などと悩んでいることもあるでしょう。
しかし結論から言うと、日本に住民票がない場合でも通常と変わらず相続が可能です。手続きに必要な書類は異なりますが、それ以外に大きく異なる点はありません。
ここでは、海外在住者の遺産分割に必要な書類や、海外在住者が相続する上で気をつけたいことを確認していきます。
遺産分割協議の流れと注意点
そもそも遺産分割協議とは
遺産分割協議とは、相続人全員の合意のもと、被相続人(故人)の土地や建物、預金、保険などの相続財産について、分け方などを決めるものです。
もし遺言書があれば、基本的にはその遺言通りに分けることになります。
遺産分割協議で決めることは、下記の通りです。
- 誰が相続するか
- どの財産を相続するか
- どれだけ相続するか
遺産を相続するには遺産分割協議をしなくてはなりません。日本にいる者同士が協議する場合は直接会って話し合いができますから、トラブルになる可能性も低いと言えます。
しかし、海外に在住していると日本での話し合いになかなか参加することができず、トラブルに発展することもあります。
考えの行き違いを避けるために確認はしっかり取ること
海外在住者が遺産分割協議を進めていく場合、手続きをする上で細心の注意を払う必要があります。
海外に居住している相続人の方も、いったんは話し合いのために帰国してくることもあるでしょう。しかし、仕事のためにそれほど長く日本にいられず、その後は電話やメール、手紙で話し合うということも多いはずです。
これらは便利なツールではありますが、直接会って話せない以上は、伝え漏れや誤解が発生するリスクが多くなります。実際、海外在住者を交えた遺産分割協議では、考えの行き違いによる問題やトラブルが多く発生しています。
後の争いを避けるためにも、念には念を入れて、くどいくらいに確認を取るようにしましょう。
書類受け渡しトラブルにも注意
海外在住者を交えた遺産分割協議では、書類の受け渡しにも注意しなければいけません。国内なら手渡しですぐに行える書類の受け渡しですが、海外在住の場合は、郵送で書類をやり取りすることになります。
海外から国内への郵送には手数料も時間もかかってしまいますし、もし書類に不備があって書きなおす必要が生じた場合、かなりのタイムロスになってしまいます。また、郵送時のトラブルで書類がなくなってしまうということもあるようです。
このようなトラブルをなくすためにも、書類を送付する前に書き漏らしがないかきちんとチェックし、郵送する書類は必ずコピーをするか画像として保存しておきましょう。また、書類を日本に送る際には送った旨をきちんと連絡しておけばより安心ですね。
生前に遺言書の作成をお願いしておく
外国への文書の郵送には時間がかかることに加え、遺産分割協議でも話し合いがなかなか進まず、考えの食い違いなどが起きてしまう可能性もあります。余計なトラブルを防ぐためにも、可能であれば事前に遺産分割の話し合いをしておくと良いでしょう。
特に、事前に遺言を作成しておいてもらえば、相続人全員で行わなければならない遺産分割協議を省略することができますから、相続手続きも非常にスムーズになります。
遺産分割協議のために準備する書類と注意点
海外在住者の遺産分割に必要な書類は2つ
遺産分割をするには「遺産分割協議書」を作成する必要があります。この書類を作成する際に、国内在住の方ならば
- 住民票
- 印鑑証明書
- 実印の押印
が必要となります。
海外在住の方は
- 住民票の代わりに「在留証明書」
- 印鑑証明書の代わりに「サイン証明書・署名証明書」
が必要になってきます。
この2つの証明書について詳しく見ていきましょう。
住民票の代わりに在留証明書を発行する
在留証明書とは住民票の代わりになるものです。発行は現地の日本領事館に赴く必要があります。ただし、この証明書を発行してもらうには、下記の条件を満たしていなければなりません。
- 日本国籍を有していること
- 現地に3ヶ月以上滞在し、住所が公文書などで明らかになっていること
この2点を満たしていれば、発行してもらうことができます。発行手数料は1通1,200円程度です。この手数料は現地の通貨で支払わなくてはなりません。
印鑑証明書の代わりに、サイン証明書・署名証明書を発行する
遺産を相続する際には、印鑑証明書が必要となりますが、海外では印鑑を使う習慣がありませんから、海外在住者は印鑑証明書を入手することができません。
印鑑証明書の代わりになるのがサイン証明書・署名証明書です。
サイン証明書・署名証明書の発行には、日本国籍を有していることを証明できる書類(パスポートなど)が必要となります。遺産分割協議書を持参のうえ、領事館にいる担当係官の前でサインをすることで発行できます。発行手数料は、1通1,700円程度。こちらも現地通貨で支払う必要があります。
また、サイン証明書・署名証明書は、日本の公証役場で認証を受けることも可能です。遺産相続の話し合いなどで一時帰国する予定があるならば、その際に入手するのも良いでしょう。
書類準備の注意点
日本にいる場合、「印鑑証明書」や「住民票」の発行は1日もあればできてしまいます。
しかし、「署名証明書」や「在留証明書」の作成には、直接領事館に出向かなくてはならないため、手間も時間もかかってしまいます。特に、領事館が遠方にある場合はなかなか出向くことができず、相当な時間がかかってしまうこともあるのです。
相続税の申告が必要な場合は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に手続きを完了しなくてはなりませんから、ゆとりを持って行動するようにしましょう。
相続税の支払いについて
海外在住でも原則相続税を日本に支払わなくてはならない
海外に在住していて日本に住所がない人は、相続した財産のうち日本国内にある財産だけが相続税の課税対象になります。
しかし、下記のような場合は日本国外の財産でも課税対象になります。
- 相続が決定したときに、日本国籍を有していた場合
- 被相続人または相続財産を取得した相続人などが、被相続人の死亡日前10年以内に日本国内に住所を有したことがある場合
また、留学や海外出張など、一時的な海外在住の場合も日本に住所があるという扱いになり、課税対象となります。
なお、海外在住者の相続税の納税義務の制度は頻繁に変わっています。相続税に関する詳しい情報は国税庁のホームページで確認することができますから、相続の都度、今の相続税の課税がどのようになっているかは必ずチェックしましょう。
海外在住者の相続手続きは、基本的には国内での相続と違いはありませんが、国内にいる他の相続人との連絡を密にして、遺産分割協議を手早く進め「在留証明書」「サイン証明書・署名証明書」の取得を急ぐことが大切です。