「事業継承」とは、会社の経営や財産などを後継者に引き継ぐことです。一見複雑に見える事業継承ですが、前もって準備しておけばスムーズに行うことができます。
計画前にチェック!事業継承をスムーズに行う3つのポイント
事業継承の計画を立てる前に、いくつかチェックしておきたいポイントがあります。
1. 準備はできる限り早めに!
まず一番大切なポイントは、できる限り早めに準備を始めることです。
事業継承の準備作業にはまとまった時間が必要なので、早めに準備に取りかかりましょう。
2. 事業継承の方針を明確にする
次に、事業継承の方針を明確にすることです。
事業継承は今後の会社の経営状態や信用に大きく関わりますので、しっかりとした方針を決めておくことが大切です。
3. 具体的かつ現実的な目標を立てる
現実的な目標を立てることもポイントです。
例えば「利益が上がっていない事業を2年以内に縮小し、利益が多い事業に集中する」というように、具体的な目標を立てるのがよいでしょう。
このように長期的な目標が決まったら、それを達成するための中期、短期的な目標を立てます。
その目標に合わせて経営者と後継者がともに予定や運営方法を調整すれば、事業継承後の経営の大きな乱れを防ぐことができます。
準備を始める前に、まずはこれらのポイントをチェックしておき、スムーズに事業継承を行いましょう。
事業継承の準備を始める2つのタイミング
会社の経営状態や継承者によって事業継承の準備を始めるタイミングは異なりますが、準備開始の目安としては以下の2通りを参考にしてください。
1. 後継者の継承時期から逆算して準備を始める
事業継承の準備を始めるタイミングは、「後継者が会社の経営を切り盛りできるようになる時期」や「年齢」から逆算して図ることができます。
個人差はありますが、後継者が40歳前後になるタイミングで事業を継承できるよう準備する経営者も多いです。
ちなみに、2012年に行われた事業継承のタイミングに関する統計によると、「事業継承が40~49歳に行われ、ちょうどよいタイミングだった」と回答された方が一番多いことがわかりました。
また、後継者の年齢が若ければ若いほど継承後の業績が改善するケースも多いことから、早い段階で事業継承を考える経営者は増加傾向にあります。
2. 事業継承の10年前から準備を始める
当然ですが、事業継承は思い立ってすぐにできるものではありません。
後継者の選出や育成、取引先や従業員との信頼関係を築く、といった準備が必要ですし、いずれも時間がかかります。
このような点を考慮すると、事業継承の時期が決定している場合は、その10年前が準備を始めるタイミングとして適しています。
事業継承の準備手順5つを徹底解説
ここからは、事業継承をスムーズに行うための準備手順について、5段階にわけてご紹介します。
1. 早めかつ慎重に計画を立てる
事業継承には、自社株などの「事業用の資産の継承」も含まれます。
経営に必要な自社株や資産を、後継者を中心に分配しますが、法律上「遺留分※」があるため、経営に関わっていない配偶者や子どもにもそうした会社の資産が流れてしまう場合があります。
※兄弟姉妹以外の法定相続人に保証されている最低限の相続割合
これは継承後の会社の経営や経済状況に大きく関わるため、後継者以外に会社の資産を相続する人数が多い場合は、事業継承をとりわけ慎重に計画、実行しなければなりません。
そして、事業継承に含まれる要素として忘れてはならないのが「経営の継承」です。
これは経営のノウハウや経営理念など、会社を経営、運営していく上で必要な知識を継承するということです。
会社の規模や経営状況などによって継承完了までにかかる時間は異なりますので、早めに計画を立てる必要があります。
2. 継承に関わるお金を整理・確認する
計画を立てた後は、まず会社の事業用の資産や株式、個人の資産がどれくらいあるか確認しましょう。
また事業継承にかかる費用についても、事前に確認することをおすすめします。事業継承には、以下のような2種類の費用がかかります。
会社の資産買取にかかる費用を確認
まず一つ目は、相続により分散してしまった自社株式や事業資産を、後継者(会社)が買い取るためにかかる費用です。
先述したように、相続には「遺留分」があるため、特に相続人が多い場合は自社株式や資産が分散され、会社の経営に支障をきたす可能性があります。
そうした株式や資産が多ければ多いほど買い取るための費用が必要になってしまうのですが、
- 相続人に対する株式の売渡請求
- 経営承継円滑化法
など、事業継承にかかる費用を抑えるための制度も存在します。
会社経営に必要な株式や資産の買取にどれほど費用がかかるか、またそうした費用を抑えるためにどのような制度を活用できるか、後継者はあらかじめ確認しておかなければなりません。
相続税や贈与税の金額を確認
次に確認しておきたい費用が、相続や贈与によって自社株式や事業の資産を取得した際、納付しなければならない「税金」です。
継承した会社の財産については、相続税や贈与税などを納付する必要があります。これらの税金を納付できない場合は、国に財産を譲渡しなければならないため、会社を経営できなくなってしまいます。
しかし、事業継承の場合は相続する額や財産が多く、納付すべき税金も増えて経営を圧迫してしまう、というケースも少なくありません。
そこで活用したいのが、事業継承に関わる税金の減額や納付猶予といった制度です。この制度は事業継承の内容や会社の経営状況に合わせて細かく区分されているため、どれを適用できるか確認しておくことをおすすめします。
3. 継承関係者を整理・選出する
次に、現経営者やその配偶者、子ども、後継者、従業員といった事業継承関係者を整理しましょう。
事業継承は親から子に行われるケースが多いですが、従業員の中から継承者を選出することもできます。
その場合、これまで継承する意思のなかった親族などが急に「継承したい」と言い出したとしたら、自体が複雑化してしまいます。そのため、親族には継承の意思を事前に十分確認しておきましょう。
後継者にうまく事業継承が行われないと、会社の経営悪化や経営停止を招きかねません。そうならないためにも、継承者は慎重に選ぶ必要があります。
適切な後継者が見つからない場合は、商工会議所や中小企業のサポーターである「巡回対応相談員」などに相談することも可能ですので、ご活用ください。
4. 後継者を「新しい経営者」として育てる
後継者が決まったら、その方を新しい経営者として育てましょう。そのためには、社内、社外両方における教育が必要です。
社内での教育においては、製造、財務、労務、営業など各部署の業務を「ローテーション」により習得させましょう。そうすることで、会社全体の業務を把握することができます。
また、専務や部長といった責任ある立場に後継者を就任させる方法も有効です。会社の経営方法や、経営者として必要なリーダーシップを少しずつ体得できるでしょう。
社外における教育としては、他社に勤務し、より広い視野や人脈を形成する方法が挙げられます。
また、後継者を対象とするセミナーなどに参加し、必要な知識を得るのもよいでしょう。
会社や後継者によって必要な教育は異なりますので、当人と話し合いながら決めることも大切です。
5. 従業員や取引先と信頼関係を築く
現経営者と後継者の間に信頼関係があることは大前提として、会社の従業員の方たち、取引先の会社と信頼関係を築くことも忘れてはなりません。
事業継承完了に向けて少しでも取引先の会社や従業員に安心してもらえるよう、相互に信頼関係を築くことが大切です。
事業継承時は、会社に大きな変化が生じるときでもあります。従業員や取引先との信頼関係がなくては、その後の会社運営を左右しかねません。
現経営者の価値観や経営ビジョン、方針や理念を後継者が十分に理解し、安定した経営を行いながら会社を発展させるためにも、こちらの情報を参考にしてきちんと事業継承の準備をしておきましょう。