「付言事項」とは?

遺言書には、「付言事項」という項目があります。自分の希望や家族へのメッセージなどを記載するところです。

何かと決まりごとの多い遺言書において、付言事項だけは書き方に規定がないため、遺言者が自分の気持ちや希望をありのままに記述することができます。

例えば、相続人が納得できるように遺産配分の理由を説明したり、葬儀に関する希望を伝えたりする場合にも使います。

ここでは、付言事項の必要性と注意点、また法的に効力のある「法定遺言事項」との違いなどについて解説したいと思います。

付言事項はなぜ必要なのか?

付言事項として書かれた内容に法的な拘束力はなく、相続人はそれを実行する義務はありません。

しかし、遺言者が家族への感謝の気持ちを伝えたり、正直な思いを打ち明けたりすることが出来ます。そうした言葉を相続人に伝えることで、遺産相続などのトラブルを未然に防ぐことができるかもしれません。

相続人が遺言書の内容を受け入れ、トラブルを回避して、スムーズに相続を進めるためにも、付言事項の果たす役割は重要だと言えるでしょう。

付言事項を書く際の注意点

遺言書を書くときの注意点

遺言書の内容は、遺産分割に関することが中心となりますが、相続財産の分割方法が特定の相続人に偏った内容であれば、不平不満が出るのは当然です。

そうした不平不満が相続のトラブルに発展しないように、付言事項をうまく活用するのです。相続人が抱く不公平感を排除するためには、なぜそのような相続内容になったのかを書き記すことが重要でしょう。

また、葬儀に関する希望を記載しても、遺言書の開封が遅れたために希望を実現できないようなケースが出てきます。
葬儀に希望がある場合は、場所や方法などの条件を明記した書類を別途作成し、事前に家族と相談しておいた方が良いでしょう。

「法定遺言事項」と「付言事項」の違い

法的効力がない「付言事項」に対して、法的効力が認められている事項が「法定遺言事項(遺言事項)」です。
記載方法に規定のない付言事項とは異なり、法定遺言事項には一定の制約があります。

それぞれの内容を具体的に見ていきましょう。

法定遺言事項(法的に有効な遺言事項)の主な事例

遺言による相続分の指定(民法902条)

「被相続人は、遺言で共同相続人の相続分を定め、又はこれを第三者に委託することができる。」という規定がなされています。
被相続人は、遺言により自分の意思で相続人に財産を渡す割合を決めることができます。

または、それを第三者に委託することも可能です。

遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止(民法908条)

遺産をどのようにして分割するかを遺言により指定することができますし、また相続開始より5年以内であれば遺産の分割を禁止できると規定されています。

遺言による推定相続人の廃除及び推定相続人の廃除の取消し (民法893条、 894条)

推定相続人に財産を相続するだけの資格がないと判断した場合には、遺言によりその相続人を廃除できます。この場合、遺言執行者による家庭裁判所への申請が必要です。

なお、廃除についてはいつでも取消すことができ、その場合も家庭裁判所への申請が必要です。

遺言による認知(民法781条2項)

非嫡出子がいたことが判明した場合、遺言による認知も認められているため、被相続人の死亡後も認知が可能となります。

未成年後見人の指定(民法839条1項)及び未成年後見監督人の指定 (民法848条)

親権者が死亡した場合には子どもの面倒を見る人がいなくなるため、遺言で未成年後見人や未成年後見監督人を指定することができます。

包括遺贈及び特定遺贈(民法964条)

相続権のない人にも財産を遺贈することができます。ただし、遺留分は相続人に保障されます。

遺言執行者の指定又は指定の委託(民法1006条)

遺言の内容を実現する遺言執行者を指定したり、その指定を第三者に委託することができると規定されています。相続手続きは複雑なので、遺言執行者には法律の専門家を指定しておくと便利です。

祭祀主宰者の指定 (民法897条)

系譜、祭具、墳墓などの祭祀財産の管理を行う祭祀主宰者を遺言書で指定することができます。

「付言事項」(法定外の事項)の一般的な事例

葬儀

葬儀方法や納骨、散骨の希望、法要について

葬儀や法要の方法、納骨、散骨の希望等について記載しておくことにより、家族に自分の意思を伝えることができます。但し葬儀が終わって遺言書が開封されるケースもあるので、事前に家族と話し合っておいた方が良いでしょう。

献体・臓器提供について

献体を行いたい場合には、特定の大学や関連団体に事前に登録しておく必要があり、また家族の同意も必要です。
本人が亡くなると、遺体は一旦大学で必要な処置を施された後に戻されます。葬儀を執り行うことができるのはそれからです。

また臓器提供を行いたい場合は、日本臓器移植ネットワークが発行している「臓器提供意思表示カード(ドナーカード)」や運転免許証、健康保険証に設けている臓器提供意思表示欄に記入・署名することにより有効となります。

これは家族の同意がなくても有効ですが、カードを所有していることを家族に伝えておくと良いでしょう。

家族や親族に対して感謝の気持ちを伝え平穏を望むメッセージ

生活を共にした家族や親族に対して感謝の意を表明すれば、家族や親族のわだかまりも解け、遺言者の言う事を受け入れようという気持ちになるものです。
その上で遺産分割がなぜそのように行われたのか理由を書いておくと、理解してもらいやすくなります。

そして、最後に遺産相続などで揉めないように家族や親族の平穏を望むメッセージを残すことで、親族間の争いを未然に防ぐことができるかもしれません。

このように、「法定遺言事項」だけではトラブルになりがちなところを、「付言事項」を上手く使うことによって、無駄な争いを回避することができるのです。