遺産には土地や家屋のような固定資産のみならず、現金や預金など流動性の高いものも存在しています。

一般的に、金融機関などの口座にある預金を遺産として相続する場合、まずはその口座に預金がいくらあるのかを確認する必要があります。そして、金融機関が発行する残高証明書を用意することになります。

今回は残高証明書の発行手順と注意点、それに関わるトラブルについてチェックしましょう。

相続時における残高証明書の発行手順

故人の預金を遺産として相続する場合、通常は被相続人が口座名義人になりますので、本人以外の者がその口座の残高証明書を発行申請するためには、まず被相続人が死亡したことを証明する必要があります。そこで用意するのが被相続人の除籍謄本です。

同時に、各相続人の立場を証明する必要があります。つまり被相続人との関係を明確にするわけです。そのためには、相続人全員の戸籍謄本、さらに運転免許証などの身分証、実印、印鑑証明書などを用意します。

すべての書類が揃ったら各金融機関で規定されている残高証明書発行申請書に必要事項を記入して、必要書類と一緒に提出するのです。

ここで注意しなければならないのは、金融機関ごとに発行申請書の様式が異なっている点です。例えば、預金を複数の金融機関の口座に分けている場合は、1件ずつ申請書を書く必要があります。銀行によっては支店が近郊のエリアにない場合もあるでしょう。その場合はどうすればいいのでしょうか?

相続時における残高証明書の発行で知っておきたいこと

相続時の残高証明書

法定相続人以外でも残高証明書を代理で発行申請できる

残高証明書は、基本的に法定相続人が申請します。しかし家族が離れて暮らしていることも多く、同じエリアで生活しているとは限りません。

その場合、相続財産管理人を代理人にたてることで、残高証明書を発行申請することができます。そのためには、相続財産管理人が相続人の署名と実印による捺印がされた委任状を携えて申請する必要があります。

この代理人による発行申請は、相続人の時間的な問題を解決できるだけでなく、相続財産管理人という第三者を介在させることで公正な手続きが進めやすくなります。不必要な人間関係のトラブルを未然に防止することにも役立つでしょう。もちろん一定の費用は必要になってきますが、短い期間で遠方の金融機関でも残高証明が取れるのは大きなメリットだと言えます。

残高証明書の発行日は被相続人の死亡日と一致させる

残高証明書を申請する際、見落としやすいポイントとして「発行日の日付」があります。この日付は、被相続人の死亡日、つまり相続が始まる日でなければなりません。しかし、死亡日を金融機関に告げずに発行を進めてしまうと、申請日が記載されてしまう可能性があるのです。

相続では、残高証明書に記載された日付の預金額が公式の金額として見なされます。また、再発行には通常1,000円から2,000円の手数料を金融機関に支払わなければなりませんので注意しましょう。

残高証明書を発行することで、公正な相続が進めやすくなる

被相続人の預金額を確認するだけなら通帳を見れば一目瞭然のはずです。それなのに、なぜ面倒な手続きをしてまで残高証明書を求められるのでしょうか?

それは預金通帳の残高が実際の預金額とは異なる場合があるからです。例えば、預金はキャッシュカードでも引き出せますので、記帳していない期間があれば額面が一致しない可能性はあります。

相続における残高証明書は、通帳と実際の預金残高が食い違うことを防止し、正しい預金額を証明するためにあります。つまり、残高証明書があることによって、被相続人の死亡日時点での正確な預金額が公的に認められるわけです。

また、残高証明書を発行することによって被相続人の口座を一旦凍結することができます。そのためには被相続人の死亡が証明される書類の提出が必須になります。口座を凍結することでお金の出し入れができなくなるので、遺産相続の不正防止に役立つのです。

公正な相続を進めやすくなることが、残高証明書を発行する最大のメリットと言えるでしょう。

預金に事業性がある場合は要注意!残高証明書に関わるトラブル事例

残高証明書のトラブル
残高証明書が発行されると預金の安全性は確保されるわけですが、その分融通性が大きく失われることにもなります。

一般家庭における相続であれば、被相続人は個人なので、残高証明書が発行されてもそれほど影響はありません。しかしその預金が事業性を持っていたとなると、時として深刻なトラブルを招くことにもなります。

個人事業主だった被相続人の口座凍結で資金繰りが困難に

一般的に、事業は法人形態で進めた方が節税の面において有利ですが、決算の利便性などを考慮して、個人事業主として事業をされている方も少なくありません。
その中には事業用の口座名義を個人名のままにしておく方もいます。この場合、残高証明書の発行によって口座凍結されてしまうと、資金の引き出しができなくなり大変困ることになります。

このトラブルは深刻で、仕入れや給与の支払いもできなくなり、黒字倒産を引き起こす大きな要因にもなります。そうならないようにするためには、被相続人が存命中に対策をたてておく必要があるでしょう。

海外口座だと残高証明書が発行されない可能性もある

また、被相続人が有していた銀行口座の中に海外の金融機関のものが存在する場合もあります。

現在は日本に住んでいても一定の条件で口座開設ができる「オフショア口座」による外貨預金が注目を集めています。経済のグローバル化が進んでいる今、資産家でなくとも海外口座を開設するケースは今後も増えるでしょう。

しかし、日本の金融機関と海外の金融機関では管轄される法律が異なり、場合によっては残高証明書が簡単に発行されない可能性もあります。仮に発行されても時間が掛かることがあるので注意が必要です。

このように相続における残高証明書は、遺産額を公的なものにする役割があります。公正な相続を進めるのに大いに役立つでしょう。同時に、注意すべき点もいくつかありますので、残高証明書を発行した後に困ることがないように気をつけてください。