多くの方が遅かれ早かれ遺産相続を経験することになります。しかし、「遺産相続なんて資産家だけの話」と思っている方も少なくないようです。

そのため、遺産の具体的な受取方法やその流れについて理解されていないことも多いでしょう。

遺産を最終的に受け取る方法はシンプルなものですが、確実に受け取るためには知っておいた方が良いこともあります。

ここでは、その一連の流れをわかりやすく解説していきます。

準備編〜遺産をリスト化し相続人の意思を確定する

まず、遺産の受け取りを確実に進めるための準備から見ていきましょう。
基本的に遺産というものは想像以上に多く、残された家族もこんなものまであったのかと驚くケースも少なくありません。

実際のところ、遺産を受け取る前の準備が最も面倒とされ、この段階をしっかりしておくと、全体的な流れもスムーズに行くと言えます。

ここでは、準備として進めなければならない一般的な作業はもちろん、相続人に関する重要な手続きについても触れていきます。

遺言書の確認やすべての遺産に対するスピーディなリスト化

遺産の受取の手始めとしては、やはり遺言書の有無の確認から始まります。被相続人の生前に遺言書の場所を確認しておくとよいでしょう。

しかし、生前に遺言書が作成されていないケースもあって、この場合は相続財産の管理人を設定し、相続すべき遺産をリスト化してもらう必要があります。管理人は第三者に任せるのが適切です。相続人間のトラブル防止にも役立ちます。

そして、この遺産のリスト化が正確に早い段階で完成すれば、手続きもスピーディに進められます。

相続人の確定とそれぞれの承認や放棄に関する意思表示

また、遺産の確定と同じくらいに重要なのが相続人への「相続の意思」の確認になります。法定相続人の資格があれば遺産を相続できる権利がありますが、相続に対して明確に意思表示をしなければ手続きは進められません。

相続についての承認をする場合もあれば、何らかの事情にて放棄される意思を持つ方もいらっしゃいます。また、遺言書にて第三者への遺贈が挙げられている場合、それらも含めて意思表示を受けなければなりません。

とてもデリケートな部分でトラブルになりやすいため、慎重に進めなければいけません。

遺産分割編〜遺産分割協議書を作成し名義変更を行う

遺産分割
複数の相続人がいる場合、遺産を最終的に受け取るには、遺産の分割を行う必要があります。

この場合、遺言書で遺産ごとに相続人を厳密に指定していれば問題ないですが、遺言書には簡単にしか記載されていない場合や、相続人全体で包括的に相続しなければならない場合もあるのです。

包括的相続になると、相続人の構成によってはトラブルの元になることも多いです。
ここでは分割をスムーズに進めるための流れをチェックしていきます。

遺産の分割に関する協議を進めて協議書を作成する

まずは相続人同士で遺産分割に関する協議を進めることになります。この協議では、各相続人がどの遺産を受け継ぐかを取り決めます。

有効な遺言書がある場合には、遺産分割協議は必要ないと思われがちですが、遺言書に遺産ごとの分割を決められていないこともよくあります。その場合は、協議を行い、遺産分割協議書を作成する必要があります。

このとき、相続放棄をする人がいるのであれば、それも同時に把握することで、分割協議も進めやすくなります。

現金資産以外は名義変更の手続を適切に進めていく

遺産分割がスムーズに運んでも、最終的に所有権の移転をしないと相続は完了しません。この場合、現金などの流動資産であれば簡単ですが、預金や証券そして不動産などになると名義変更が必要になってきます。

預金などは被相続人が死亡した段階で凍結されますし、その時点で資金を動かすことができなくなります。不動産についてはもっと複雑で、名義が被相続人の前の世代からずっと変更されていないケースもあって、そうなると手続きにもかなり時間を費やさなければなりません。

最終受取編〜相続財産管理人の選定と相続税の申告

ここからは、遺産の最終的な受取の段階になります。ここまでくれば手続自体もスムーズに進むことが多いのですが、相続人の関係があまり良くない状況下においては話がもつれることもあります。

そのような状況で、特定の相続人が主導となって遺産の受取処理を進めることは得策ではありません。

財産管理人を選定して公平な遺産受取を進めさせる

この場合、第三者としての相続財産管理人を選定することで、相続人への遺産受取を公平に図りやすくなります。

遺言書によって管理人を指定していることもありますが、そうでなければまったく相続人と利害関係のない弁護士事務所などに依頼することが一般的です。

財産管理人は遺産の換金などを進めることも重要な業務ですので、結果的に身内で進めるよりもスピーディに遺産受取が実現できることがほとんどです。

ただし、弁護士事務所に委託するにしても、相続専門の弁護士に任せなければコストパフォーマンスが悪くなるので注意しましょう。

相続税が発生する場合は決められた金額を必ず申告する

また、遺産受取が順調に行ったとしても、それで無事に終了とはいきません。相続した遺産の内容によっては、相続税を納めなければなりません。税金を支払って初めて遺産相続が完了したことになるのです。

近年、相続税の適用範囲は大きくなる傾向にあり、国は相続金額の低額化にも対応すべく、税制度は今後も変更を重ねていくと思われます。よって、遺産受取は相続税を考慮しながら進めることをおすすめします。

遺産受取で発生しやすいトラブルケース

遺産受取
遺産受取は、トラブルが発生すると時間的なロスが出やすい特徴があります。
ここではトラブルの中でも頻発しやすく、揉めやすいケースをご紹介します。

財産管理人の不正による特定相続人への受取金額操作

遺産受取の流れで、最もあってはならないトラブルは財産管理人による不正です。残念なことですが、経験豊富な弁護士であっても、遺産の着服など不正を行うケースは後を絶ちません。

特定の相続人と繋がりのある財産管理人だと、その相続人の受取額が有利になるよう巧妙に操作するケースもあります。この点からも、管理人の選定には気を遣わなければならないことが理解できます。

特に相続人が未成年だったりすると、社会的知識も不足していることから、財産管理人による不正がより簡単に発生しがちです。
こうした不正を100%防ぐことは困難ですが、財産管理人を選定する際には、相続の経験が豊富な弁護士事務所に依頼し、相続人とは繋がりのない第三者であることが非常に重要だと言えるでしょう。

流動性の低い財産による受取遅延

遺産には預貯金だけでなく、住宅や土地などの不動産も含まれます。
そのままでは分割ができないので換金しようとした場合に、実は売却が難しいタイプの土地や物件であることも考えられます。

そうなると、遺産受取の遅延が生じやすくなり、相続人の間で摩擦が生じてトラブルに発展することもあるでしょう。

相続税の資金確保とも関係してきますので、財産の管理を誰が進めるにしてもこの点は事前に意識しておいた方がよいでしょう。

このように、遺産を受取るまでには様々な手続きが存在します。親族同士が揉めることのないように、早めに話し合いをもっておくとよいでしょう。最初から専門家に任せるのも方法のひとつです。