再婚して「連れ子」がいらっしゃる方の場合、「連れ子に遺産を相続すること」はできるのでしょうか?

ここでは、連れ子に遺産を相続する2つの方法をご紹介します。

方法1. 「養子縁組」の制度を利用する

最初にご紹介する方法は、「養子縁組」という制度を利用して、再婚した親と連れ子が法律上で親子となるというものです。

遺産相続には「相続権」が必要!

養子縁組について解説する前に、まずは「相続権」について理解しておく必要があります。
多くの人は遺産について「家族がもらえるもの」「子どもがもらえるもの」という漠然としたイメージを持っています。

しかし、正確に言うと遺産を相続できるのは「相続権」を有している人だけなのです。

相続権が与えられる人は、以下の通りです。

  • 被相続人(相続財産を遺したまま亡くなった人)の配偶者
  • 被相続人の血族

そして相続権を有している人の中でも、「優先的に遺産を相続できる順位」というものがあります。

順位については次の通りです。

  • 第1順位…被相続人の配偶者や子、子どもがいない場合には孫
  • 第2順位…被相続人の父母、父母がいない場合には祖父母
  • 第3順位…被相続人の兄弟姉妹、兄弟姉妹がいない場合には甥・姪

このように、被相続人の子は第1順位であるため、本来であれば遺産を相続できます。しかし民法では「被相続人の実子、または養子以外は相続人になれない」と規定されているため、これから紹介する手続きを行っていない場合は、連れ子は相続人として認められず遺産を相続できないのです。

連れ子に相続権を与えるには「養子縁組」をする

連れ子

連れ子が相続権を得るために必要な手続きとは、「養子縁組」の制度を利用して親の「養子」となる、というものです。
そうすることで、民法の「被相続人の実子、または養子以外は相続人になれない」という条件をクリアできるため、連れ子でも遺産を相続できるようになります。

つまり、養親と養子の間に実際は血縁関係がなくても法律上は血縁関係がある状態になるため、養子になった連れ子が第一順位の相続人となり、遺産が相続できるということです。

また、養子縁組の制度には次の2つが存在します。

普通養子縁組

普通養子縁組は、養親と法律上の親子関係を結んで「養子」となる一方で、実親との親子関係も継続できる制度です。養子縁組の制度としては次に紹介する「特別養子縁組」よりも一般的であり、実親の相続権と養親の相続権を両方持つことができます。

特別養子縁組

特別養子縁組は、普通養子縁組とは異なり、実親やその血族との親族関係を完全に終了させる制度です。つまり、養子は養親の嫡出子=実子として扱われるようになります。
養親の相続権は持てますが、実親やその親族との血縁関係は完全に断ち切られるため、実親やその血族に関する相続権は消滅します。

特別養子縁組の制度を利用するには、
「養親となる人は、原則として25歳以上であり他方が20歳以上であること」
「養子は、原則として6歳未満であること」
などいくつか条件があるため、普通養子縁組を利用する人のほうが多いです。

養子縁組によるメリット・デメリット

養子縁組をすることで得られるメリットは、やはり連れ子でも実の子と同じように遺産を相続する権利が得られる点でしょう。また詳しい話は省きますが、養子縁組をすることで遺産相続にかかる相続税が節税できるケースもあります。そのため、相続税を上手く節約するために養子縁組を行うこともあるのです。

ただし、こういったメリットの一方で養子縁組にはデメリットも存在します。養子縁組をすることで「実の子と同じように遺産相続する権利を得られる」ということは、言い換えれば「連れ子でも遺産相続について相談する場で自分の権利を主張できる」ということでもあります。

もし子どもが連れ子のみであれば良いのですが、連れ子と実の子で遺産を分けるとなった場合には、いくら連れ子に相続の権利があるといっても争いが起きるケースが多いのです。

また、連れ子の場合は実親から養育費をもらっているケースも多いですが、養子縁組をすることで養育費が減額される可能性も大いにあります。

普通養子縁組の手続きは比較的簡易

特別養子縁組をするケースは比較的少ないこともあり、条件が厳しいうえに必要な手続きも多いです。それに対し、一般的な普通養子縁組の場合は以下の必要書類を当事者の本籍地、もしくは当事者が居住している市町村の役所に提出し、許可されれば手続きが完了となります。

普通養子縁組の手続きに必要な書類

  • 養子縁組届
  • 当事者の本籍地以外の市区町村に届け出る場合には、戸籍謄本
  • 本人確認ができる資料

方法2. 「遺言」を利用して連れ子に「遺贈」する

エンディングノート

もうひとつの方法は、「遺言」を利用して連れ子に遺産を残すというものです。

遺言を利用すると、法律で規定されている「相続人」に該当しない人にも遺産を分け与えることができます。そのため、遺言が残されている場合は、養子縁組をしていない連れ子でも自分の親の再婚相手から遺産をいくらか受け取れるのです。

このように、遺言によって財産を相続人以外の人に分け与えることを「遺贈」と言います。

遺贈は可能だが金額には限界もある

遺言書に「連れ子に財産を分け与える」旨を記しておけば、養子縁組を行っていない場合でも連れ子に財産を相続(厳密には遺贈)することが可能です。しかし、遺贈によって与えられる財産にも限度があるため、遺言者が希望するだけの財産を連れ子に与えられない、という可能性も出てきます。

なぜかというと、相続には「遺留分」という制度があるからです。遺留分とは、「一定の範囲の相続人に認められている最低限の権利」のことです。

基本的に遺産は、先述したように、法律で定められた基準に該当する相続人(配偶者や実子、祖父母、兄弟)に与えられるものとなっています。その一方で、遺言によって相続人以外にも遺産を分け与えられるようになっているのですが、「遺言の内容をすべて受け入れる」となると本来の相続人が不公平に感じてしまうケースも少なくありません。

そこで、「一定範囲の相続人は、最低限これだけの遺産は受け取れるように保障しましょう」という制度=「遺留分」が設定されたのです。

例えば家族に夫と妻の実子と、妻の連れ子(養子縁組を行っていない)がいた場合に、夫が遺言書に「私の財産はすべて連れ子に遺贈します」と書いていたとしましょう。この状態で夫が亡くなると、遺言書に基づくと連れ子にすべての財産が遺贈されることになります。

しかし、本来の相続人である妻と実子は「遺留分」として最低限の相続はできるように保障されているので、遺言が無効になる可能性もあるのです。

このように、いくら遺言によって連れ子に遺贈できる、と言っても「遺留分」の制度があるため、その金額には限界があります。

遺言書は確実性の高い「公正証書遺言」が安心

養子縁組をしていない連れ子に一定金額を遺贈するには、当然ですが必ず「遺言書」が必要となります。

遺言書にもいくつか種類がありますが、

    • 自分で遺言書を作成する「自筆証書遺言」
    • 公証人が遺言者から直接聞き取りを行って遺言書を作成する「公正証書遺言」

という2つの方法が一般的です。

遺言書を書く際は曖昧な表現は避け、一定の書式やルールに基づいて書かなければなりません。もしこのルールにあてはまらなかった場合は、せっかく作成した遺言書も効果を発揮しなくなってしまいます。

「自筆証書遺言」は費用がかからないというメリットがあるのですが、自分で作成する分ミスに気づきにくいという危険もあります。そのため連れ子に遺贈するのであれば、費用はかかりますが「公正証書遺言」のほうが安心できるでしょう。

こちらであれば、遺言書のルールはもちろん遺留分に関する知識もある「公証人」(公証事務を行う公務員)に作成してもらうことができます。

養子縁組と遺言、それぞれの特徴を生かして遺産相続を

今回は連れ子に遺産を相続するための「養子縁組」と「遺言」という2つの方法を紹介しましたが、どちらにも一長一短があります。

確実に連れ子に遺産を相続させたいのであれば養子縁組のほうが良いですが、それぞれの家庭の状況などにあわせて使い分けると良いでしょう。