相続は時に残された人たちに大きな争い事を引き起こすきっかけになります。争いを起こさないためには遺言書を残して相続の内容を明確に決めておくことが賢明です。
ところが、困ったことに遺言書が争い事のきっかけを作ってしまうこともあるのです。とても残念なことですが場合によっては犯罪になってしまうこともあります。遺言書の内容を自分に有利なように改ざんしたり、偽造したりする事例が後を絶ちません。
遺言者の人間関係や性格、認知の状態から判断して、明らかに矛盾した内容や、一人だけが得をするような内容の遺言書には誰しも不信感を抱きます。
偽造が疑われる遺言書?
遺言者とは違う筆跡で書かれた自筆証書遺言
自筆証書遺言なのに、遺言者とは全く違う筆跡で書かれていれば疑われても致し方ありません。
遺言者が日ごろ不仲だった親族や知人に多くの財産を残す内容の遺言書
遺言者に複数の子供がいた場合などに、不仲が原因で疎遠になっていた子供に特に多く相続させる内容になっている場合には不信感を持たれる原因になります。
日ごろ特に関係に問題がなかった法定相続人に極端に不利な遺言書
特に関係に問題がなかった相続人の相続分が極端に少ない場合も、やはり不信感を持たれてしまいます。
- 遺言者が病気や認知症で遺言書を書くことができない時期に作成された遺言書
- 遺言者が普段使わない言葉や文字が散見される自筆証書遺言
- 遺言者が日ごろ使わない筆記用具で書かれた自筆証書遺言
遺言者の認知症が進み、遺言書の作成は困難に思える時期に作成された遺言書も偽造を疑われます。この場合には、たとえ筆跡が遺言者のものであっても、騙されて作った遺言書ではないかと疑われます。
改ざんが見られる遺言書
すでにある遺言書が何者かによって改ざんされることは少なくありません。
遺言書の偽造とは?
- 遺言者以外の者が遺言書を作成する
- 遺言者が認知症や病気の時に遺言者を騙して作成する
- すでに作成されている遺言書を遺言者以外の者が改ざんする
遺言書の偽造が発覚する時
偽造を疑うのは遺言書を開封する「検認」の時が多いです。公正証書遺言以外の遺言書は、すべて家庭裁判所の検認が必要になります。遺言者が亡くなって遺言書を発見しても、その場で遺言書を開封してはいけません。時には封印を見た時点でおかしいと感じることもあるでしょう。
しかし、親族が集まっている場でも遺言書の開封は禁じられています。遺言書は検認手続きをする裁判所が開封します。勝手に開封してしまうと過料に処せられます。
開封したことにより、遺言書の効力に変化が起きたり、開封者の相続権に影響が出ることはありませんが、開封した遺言書が開封者にとって不利なものだからといって破棄したり、隠したりすれば犯罪になります。
検認手続きってどんなもの?
遺言書は、公正証書遺言以外は家庭裁判所の検認を受けなければなりません。検認を済ませていない遺言書をもとに不動産や預貯金、金融商品の名義を変えることはできません。
検認手続きの流れ
遺言書が見付かれば、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に検認の申立てをします。この時、申立てをするのは一般的には遺言執行者です。申立てがあれば、家庭裁判所は遺言書にあるすべての相続人に検認の日程を連絡します。
検認には原則相続人すべてが出席します。欠席しても構いません。検認が終われば、すべての相続人に検認済証明書が発送されます。
この間一カ月程度かかります。検認済証明書があって初めて財産の名義の書き換えができます。
検認の目的
遺言の内容の確認をして、検認以降に遺言内容を変更できないようにし、相続人すべてに相続の開始を周知します。
検認の費用
遺言書1通に付き800円とその後の通知に必要な切手代がかかります。
検認に必要な書類
- 申立書
- 遺言者の出生~死亡までの戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- その他、当該裁判所が指定する書類
検認の目的はその遺言書の内容を確認することであって、偽造かどうかの判断ではありません。しかし、日付、署名、押印の漏れや、パソコンで記載された自筆証書遺言などは検認時点で無効が確認されます。加筆修正の方法が間違っていても無効になります。
もし、すでにあった遺言書に、遺言者以外の者が加筆や修正をしたとしても、方法が間違っていれば、この時点で無効になります。これは、真贋の判断ではなくて加筆修正の方法に関しての確認結果です。
検認が終われば検認済証明書が、相続人すべてに発送されて相続を開始します。
検認で遺言書の偽造が疑われたら?
自筆証書遺言や秘密証書遺言は検認の時に初めて開封されます。検認では様式的な不備などで遺言書が無効になることはありますが、相続の内容に不審な点を見付けたり、書面に偽造、改ざんの跡を見付けた場合でも、偽造かどうかの判断はしません。
偽造かどうかの判断はその後の確認調停で行われます。
遺言の偽造の確認調停の申立て
確認調停は、偽造を疑う相続人が家庭裁判所に申し立てなければ行われません。この時には筆跡鑑定書や印影鑑定書、遺言書作成当時の遺言者の病状を示すカルテなどを用意します。調停の席上で、申し立てた者とそれ以外の者で話し合いがもたれ、その遺言書が偽造と認められた場合には、その遺言書は無効になります。
この場合は、調停結果は裁判の判決と同等の効力を持ちます。話し合いによっても、偽造と認められなかった場合には調停は不成立となります。
遺言無効確認の訴訟
調停が不成立に終わったり、審判されない場合、それでも、偽造の証明をしたい場合には裁判を起こすことになります。調停不成立調書をとって、当該の地方裁判所に遺言無効確認の訴訟を起こします。
裁判で遺言の偽造が確認された場合
裁判で遺言書の偽造が認められた場合には、その遺言書は無効になり、偽造した人は相続権をなくします。これを相続欠格と言います。この場合には、相続欠格者に子供や孫がいる場合、その子供や孫が代襲相続することになります。相続欠格者に代襲相続者がいない場合には相続人が減ることになります。
裁判結果に納得できない時には上告
地方裁判所の裁判の結果に納得できない場合には上告してさらに争います。相続財産が巨額の場合や事業の継承権が関わる場合には最高裁まで争われることもあります。
遺言書偽造は犯罪です
遺言書の偽造は、親族間の揉め事の域を超えて刑法犯罪になります。偽造私文書行使罪にあたり処罰は3月以上5年以下の懲役刑となります。偽造された遺言書で相続登記を行うと、公正証書原本不実記載罪となり罰せられます。
遺言書の破棄、隠蔽、偽造、改ざんなどは意外によくあることです。遺言書に対する知識が少ない時には、軽い気持ちで病気の親に自分に有利な遺言を書かせたり、遺言書にちょっと手を加えたりしてしまうことがあるのです。まさか、それが犯罪になるなどと思いもしないまま犯罪に手を染めてしまいます。
こんな時、親戚間で解決しようとすると、それこそ罵詈雑言の争いになり、結果的には何も解決しないということにもなりかねません。遺言書の偽造が疑われる場合には、早い時期に法律の専門家に相談して冷静かつ迅速に対処し、揉め事を最小限に収めることが賢明な対応といえます。