相続には「被相続人の一生分の戸籍」と「相続人全員の現在の戸籍」が必要

相続に必要な戸籍というのは、その状況によって多少異なりますが、ほとんどの場合において必要なのは、「被相続人(死亡した人)の出生から死亡までの戸籍」と、「相続人全員の現在の戸籍」です。
まず、被相続人の戸籍を揃えた方がいいでしょう。相続人の現在の戸籍については、それぞれの本籍地の役所で戸籍謄本を取得すれば問題ありません。

その理由は、被相続人の戸籍を見れば、相続人が誰なのかはっきりするからです。「相続人全員」の戸籍が必要となりますから、相続手続きで法務局や銀行などへ持っていく戸籍が1つでも足りないと、「この戸籍だけでは相続人が特定できないので、手続きできません」と言われてしまいます。

そういうことのないように、まずは被相続人から戸籍を集めていくのがよいでしょう。

ところで、なぜ「出生から死亡までの戸籍」が必要なのでしょうか?

戸籍は一生のうち、何回も改製されている

戸籍改製
戸籍とは、個人の出生から死亡に至るまでの身分的な重要事項や、親族関係について法的に証明する公的な書面です。

まず、生まれてすぐに親の戸籍に入ります。そして結婚する際には、新たな戸籍が作られて、そこに入ることになります。では、男性で独身のまま一生を終えた人は戸籍が1つだけなのでしょうか?

実は、戸籍は数年に一度、法改正によって改製されているので、大抵は数枚存在しています。一般的に、出生から死亡までの間では7枚ほどあるそうです。
法改正での改製の場合、その1つ前の戸籍に記載されていた「離婚」「養子縁組」などの事項について、新しいものには省かれていて記載されません。

例えば、離婚後に子どもの親権が相手側にあり、その戸籍に入った場合、自分の新しい戸籍には子どもが居たことが記載されません。その為、全ての戸籍を取り寄せなければ、その人に子ども(相続人)が居たかどうかの確認ができないのです。先に被相続人の戸籍を集めた方が良いというのは、こういった理由があるからです。

では、どうやって亡くなった人(被相続人)の出生から死亡までの全ての戸籍を取得するのでしょうか?

まずは「除籍謄本」を取ろう

被相続人の本籍地を管轄する役所で戸籍請求すると、死亡届の提出から約1週間程度で、死亡の記載がある戸籍が取得出来るようになります。これが除籍謄本です。
重要なのは、そこに書かれている被相続人の「死亡日」。相続手続きは、死亡日を基準にして考えられるので、最も重要な日にちとなります。

相続放棄や相続税申告も、この日にちを基準として、期間制限がかかります。法務局に対しての相続登記の原因日付も「死亡日」となりますし、金融機関からもこの日にちを尋ねられたり、何度も書類に記入することがあるでしょう。

次は「改製原戸籍」を揃えよう

除籍謄本の上部に、「戸籍事項」という項目があります。それを見れば、その前の戸籍からいつ改製され、前の戸籍のある場所が分かります。それを順次遡って請求していくことになります。その際に用意しておきたいのが、自分(相続人・戸籍請求する人)の戸籍謄本です。

例えば、父親が亡くなり、その子どもが父親の戸籍を集める場合、自分(子ども)の本籍地で現在の戸籍である戸籍謄本を取得します。その父母の欄には、亡くなった父親の名前が載っているはずです。それは、2人が間違いなく親子関係にあるという証明であり、戸籍を請求する際の身分証明となるのです。

それから父親の本籍がある役所へ出向き、「出生から死亡までの全ての戸籍を取得したい」と伝えましょう。死亡から出生に遡っていくので、次にどの戸籍を取れば良いのか聞いてみます。その役所で取れた一番古い戸籍謄本を見れば、その前の戸籍がどこにあるのか、教えてもらうことができます。

そうして2,3ヵ所を回れば、たいていは出生までの戸籍謄本が揃うはずです。中には、役所が遠くて実際に行くことは難しい場合もあるかもしれません。そういった場合には郵送申請がおすすめです。

郵送請求に必要なもの

一般的には次の書類を揃えて申請することになります。

  1. 役所所定の戸籍請求用紙(役所のWebサイトからダウンロード可能な場合もあります。)
  2. 本人確認資料のコピー(自分の免許証などのコピー)
  3. 父親と自分の親子関係を証明するもの(自分の本籍地で取得した戸籍謄本のコピー)
  4. 戸籍請求にかかる料金額の定額小為替(郵便局で購入できます)
  5. 返信用封筒(住所・宛名を記入。切手を忘れずに貼りましょう)

相続人の調査はしておいたほうが良い

相続人の調査
被相続人の戸籍が揃ったところで、今度は相続人の戸籍を用意することにしましょう。生前に遺言書が作成されていれば、あまり問題は起こらないと思われますが、後々遺言書に記載のない相続人が名乗り出てきた場合、遺留分を請求されることがないとは言い切れません。調べておくに越したことはないでしょう。

被相続人の過去の戸籍を隅々まで調べて、他に相続人がいないかを確認しましょう。しかし、その相続人の中には、既に死亡している人もいるかもしれません。その場合はどうなるのでしょうか?

亡くなった日付によって変わることもある「代襲相続」

既に亡くなっていた相続人ですが、その人に子どもがいた場合は、代襲相続が行われることがあります。その場合、死亡している相続人についても、出生から死亡までの連続した戸籍が必要となります。そうして代襲相続の権利を持つ人全員を確定する必要があるのです。

では、亡くなった相続人に子どもはいないが、配偶者がいた場合はどうなるのでしょうか?この場合は、被相続人と相続人それぞれの亡くなった日付が鍵となります。

被相続人が死亡した後に相続人が死亡した場合、その配偶者は相続権を持ちます。逆に、被相続人よりも先に相続人が死亡していた場合、その配偶者に相続権はありません。

相続手続きを放置していると手続きが困難になることも

被相続人が遺言書を残していた場合でも、一定の相続人の戸籍を取得する必要はあります。大抵は全戸籍で4〜8通ほどになると言われています。

しかし、相続手続きが遅れ、その間に相続人が亡くなったりすると、代襲相続となってしまい、相続人の数がだるま式に増えることにもなり兼ねません。そうなると必要な戸籍が10枚以上などということにもなりかねません。

また、昔の戸籍は手書きであったため、崩れていたり、クセのある字体で読みにくかったりすることもあるようです。それを読み解きながら、更に古い戸籍へ遡るのは、かなり困難な作業といえます。戸籍を取得するには、平日の昼間に役所へ赴くか郵送請求しなくてはならない、というのも厄介な問題になるかもしれません。

相続人自身で相続手続きを進めるのが困難な場合は、司法書士や行政書士などの国家資格を持った専門家に依頼するとよいでしょう。費用はかかりますが、遅延による相続人同士のトラブルを未然に防止することにも繋がります。