親が亡くなった場合などに不動産の相続登記(不動産の名義変更)をせず、故人名義のままにしている、という人は意外に多いです。

結論から言うと、不動産登記には期限がないため、極端ですが一生不動産の名義を故人のままにしておいても国などから特別な罰則を受けることはありません。また、故人名義の住宅に子どもが住み続けても問題はありません。

しかし、不動産を故人名義のままにしていると、将来的には必ずデメリットが発生します。

そこで、実際に起こり得るデメリットをこちらで確認しておきましょう。

デメリット1. 不動産を担保にしたり、売却できない

不動産は、その状態や条件によっては非常に価値が高くなります。そのため、中には親から譲り受けた不動産を売却したい、担保にしたいと考える人もいるでしょう。しかし、残念ながら名義が故人のままでは、不動産を担保にすることも売却することもできないのです。

「不動産の名義が故人のままになっている」ということは、言い換えれば法律的に「故人が不動産の所有者だと証明されている」ということでもあります。つまり、いくら故人の家族が不動産を受け継いでいたとしても、故人名義の不動産を売却する行為は「書類上、所有者としては認められていない者が不動産を売却しようとしている」ということになるのです。

もし故人名義の不動産を売却、または担保にするのであれば、相続登記をして「故人ではなく相続人が不動産の所有者である」ということを証明する必要があります。

ただし、不動産の名義人である故人が生前に不動産の売却契約を行っていた場合は、この限りではありません。

デメリット2. 不動産賠償が受けられない、または時間がかかる

火事

不動産が事故や不法行為、契約違反などによって損害を受けた場合、その損害が金銭などで補てんされることがあり、これを「不動産賠償」と言います。

不動産賠償は、原則として実際にその不動産に居住している人に対して支払われるものであり、登記上の名義人に対して行われます。つまり、故人名義の不動産がなんらかの損害を受けた場合「故人の息子が代わりに不動産賠償を受け取る」といったことは原則としてできない、ということです。

「不動産が事故や不法行為、契約違反などによって損害を受ける」と聞いても、実際にそんなことはそうそうあり得ないのでは?と思う人もいるでしょう。しかし、実はここ数年で、故人名義の不動産へ支払われる賠償に関して大きな問題が起きています。

それが「原発事故による不動産賠償」です。東京電力は、平成23年3月11日に発生した福島第一原子力発電所および福島第二原子力発電所の事故によって、それまでの住居に立ち入りできなくなった人や被害を受けた人に対して不動産賠償を行ってきました。

それまで立ち入り禁止区域に住んでいた人は、原子力発電所の事故によって「自分が持っていた住宅(不動産)に住めなくなる」という損害を受けたことになるため、東京電力はそれに対する不動産賠償を行っている、ということです。

しかし、この不動産賠償に該当する人の中には、祖父や父から家を受け継いで住んでいたものの相続登記はしていない人が多く存在しました。つまり、登記上の所有者と実際に住んでいた人が異なる、というケースが多発したのです。

このようなケースでは、実際にその家に住んでおり被害を受けたとしても、登記上の所有者ではないため不動産賠償を受けられない可能性が出てきます。

こういった場合には、相続登記をして不動産の所有者を変更すれば不動産賠償を受けられる可能性も出てきますが、実際に事故が起きてから賠償を受けられるようになるまでには時間が余計にかかってしまいます。

また、不動産が故人名義のままの状態が長期間続いている場合、その間に結婚や出産などに伴って相続人はどんどん増えていきます。すると、いざ一人の相続人が相続登記をしようとしたときに相続人全員の許可が必要になり、相続登記自体が非常に難しくなってしまうかもしれません。

突然の大きな事故などによって、不動産賠償を受け取る側になる可能性は誰にでもあります。そのようなときにスムーズに不動産賠償を受け取るためにも、きちんと相続登記しておくことが大切なのです。

デメリット3. 不動産が差し押さえられてしまうことも

自宅差し押さえ

親などが亡くなった場合は相続人全員で「遺産分割協議」を行い、遺産をどのように分配するかを話し合います。

例えばこのときに全員一致で「故人の不動産は長男が相続する」という結論に至り、長男が安心して相続登記をしなかったとします。しかし、いくら全員が「長男が不動産を相続する」ことに同意していたとしても、この状態では不動産の名義は故人のままであり、「相続人全員に法定相続分に従った持ち分が相続されている」状態になっているのです。

仮にこの状態で、長男以外の相続人が借金をして返済が滞っていたとします。そうなった場合、債権者(お金を貸している人)は相続人の法定相続分を差し押さえることができるので、他の相続人は全く見ず知らずの債権者と共有名義で不動産を所有しなくてはならない、といった事態になりかねません。

また相続登記が行われていない場合、相続人は自分に分配された不動産の持ち分を自由に処分できます。遺産分割協議の時点では全員が長男の相続に賛成していたとしても、相続人の気が変わって不動産の一部を勝手に処分してしまうということもあり得るのです。

こういったトラブルを防ぐためには、遺産分割協議によって不動産の相続人が決まった時点で、すぐに相続登記することが大切です。

手続を簡単にするためにも、早めの相続登記を

このように、故人名義のまま不動産を放置しておくと売却や賠償などの面でデメリットが出てくるため、相続登記をしっかり行うことが大切です。

また、不動産の名義が故人のままになっている状態が長引けば長引くほど、

  • 出産や結婚などによる相続人の増加
  • 認知症による影響
  • 行方不明者の存在

などによって相続登記自体が非常に複雑で面倒なものとなってしまいます。

不動産登記は早ければ早いほど手続きも簡単です。故人の遺産相続に関する協議が終わった時点で、面倒くさがらずに早めに相続登記するようにしましょう。