それまで良い関係だった家庭が、相続において思わぬ揉め事を起こすことはよくあります。遺言書がその原因となることも少なくありません。
故人の最後の希望を記した遺言書が、家族不和を引き起こしたのでは浮かばれません。そうしたことが起こらないためにも、その遺言書が誰の目から見ても有効なものであることが必要です。

ここでは、現在でも多くの被相続人が採用する「自筆証書遺言」の書き方について解説し、この遺言書タイプのメリットやデメリットも調べていきます。

自筆証書遺言の書き方~基本編

まず、「自筆証書遺言」の基本的な書き方を見ていきましょう。遺言作成において、「これくらいは良いだろう」という思い込みは禁物です。作成者本人にしてみればちょっとしたことでも、遺言書の有効性を著しく削いでしまう要因になり兼ねません。

「自筆証書遺言」の「自筆」とは当然「手で書く」ことを意味します。パソコンの普及によって「自筆」を「自作」と勘違いされる方もいます。
高齢者でもパソコンを使う方が増え、「自筆証書遺言」をパソコンで作成しようとする方もいるでしょう。しかし、この時点で遺言としての有効性が失われるので注意が必要です。

また、被相続人ひとりが作成者となります。連名にはせず、捺印には本人の実印が必要です。

自筆証書遺言の書き方~内容編

次に、「自筆証書遺言」の内容をチェックしてみましょう。自分が読む立場になってみて、どんな内容がわかりやすいだろうということを意識して書いてみましょう。

なにより大切なのは、「被相続人」がどの「相続人」に何の「財産」を相続するという流れで、財産ごとにリスト化することです。
誰が見ても分かりやすい文面が求められます。回りくどい表現は避け、明確さを意識して短く記載するのがコツです。

また、被相続人でさえ認識していない財産というものがあり、死後に発覚すると争いの原因になりかねません。
被相続人もこれを生前から意識することが重要です。
例えば、特定の相続人に譲りたいと考えるのであれば、「記載にない財産が発覚した場合、そのすべてを〇〇〇が相続する 」という文言を加えておくとよいでしょう。

自筆証書遺言の書き方~保管編

裁判所

さて、「自筆証書遺言」を正しく書けた後、それを遺言として有効なものにするためには、正しく保管する必要があります。

遺言全般的に言えることですが、遺言書は被相続人の死後に初めて効力を持ちます。ところが、「自筆証書遺言」は証人が存在しないので、被相続人が亡くなると見つけにくい遺言でもあります。
そのため、金庫などの分かりやすいけど簡単に取り出せない場所に保管しておくことが求められます。

また、「自筆証書遺言」を被相続人の死後に見つけた場合、慌てて開封してはいけません。
なぜなら、これを家庭裁判所に持っていって「検認」と呼ばれる作業を行い、遺言の有効性が確認されて初めて正式な遺言と見なされるからです。
検認前の開封は法的に罰金が科されるので注意しましょう。

自筆証書遺言のメリットとデメリット

「自筆証書遺言」の書き方が大まかに分かったところで、最後に「自筆証書遺言」のメリットとデメリットについて触れておきましょう。やはり、物事には良い面と悪い面が併存しているものです。

「自筆証書遺言」の持つメリットは、いわゆる「公正遺言」とは異なって作成段階での証人立ち合いが必要ありません。
遺言に記載する内容は被相続人のプライバシーそのものなので、証人の存在は時として不都合に感じる場合もあるでしょう。そのため、第三者をできるだけ介入させたくない方にはおすすめです。

「自筆証書遺言」の最大のデメリットと言えば、相続人による不正が行われやすいという点にあります。特定の相続人が見つけてしまえば、それを他の相続人に知らせないこともできるからです。
また、手書きの場合は偽造がしやすいのも事実で、この点の管理は難しいところです。

 

「自筆証書遺言」は、被相続人が書きたいと思ったときに書けるし、内容の変更もその都度できる利便性もあって、よく採用される遺言方式です。しかし、被相続人の死後の取り扱いに関しては不透明になりやすい性格があります。不正な改ざんが行われないように、しっかりした管理が必要だと言えるでしょう。