人間誰もが歳をとる以上、将来的な親の介護は自然の流れと言えます。
しかし、子供が複数いる家族だと、兄弟のうち特定の者が親の介護する場合が多いようです。

そのため、親を介護した相続人が遺産を多くもらえるように工夫されています。
それが「寄与分」と呼ばれる制度です。

親の介護をすると遺産が多くもらえる「寄与分」とはどういう制度?

親が遺した財産は、親自身によって形成されたものという認識を、多くの方が持っているかもしれません。

しかし、親と生計を共にする家族がいた場合、親名義の財産であってもその維持は親だけで進められたとは限りません。
例えば、親が健康上の問題を抱えれば、それを多面的にフォローする家族の存在は大きいと言えるでしょう。

亡くなった親の介護や生活維持のための費用相対分を補償する制度

「寄与分」とは、親の介護をするために介護者である相続人がトータルで負担した費用や労力を金銭に換算した相対補償分のことです。

親の介護をする者は、自分の生活の多くを捧げることになります。また、兄弟姉妹がいても、その負担は特定の者に集中してしまいがちです。「寄与分」はこれらを適正に金銭換算することで、介護をした相続人の遺産相続に反映させる制度と言えます。

他の相続人に対する強い不公平感を緩和するのが目的

「寄与分」の存在意義については、介護をした特定の相続人が抱く他の相続人への不公平感を緩和することにあると言えます。

かつて日本では、長男が親の面倒を見るのが当たり前と思われていました。しかし、今では面倒を見れる人が見るという認識の方が強いでしょう。例えば、実家で親と同居していれば、その人が親の介護をする可能性は高くなります。

しかし、だからといって弱っていく親の介護をするのは想像以上に大変なことです。こうした現実から生まれる不公平感を緩和させるのは、とても重要なことと言えるでしょう。

「寄与分」として認められるための条件とは?

親の介護

親の介護を日常のこととして専従無償で行ったか

「寄与分」として認定されるには、特定の条件を満たしていなければなりません。介護した相続人に配慮した制度でありながら、簡単には認められない一面があります。
認定されるための重要な条件基準として、介護そのものを「専従」「無償」で複数年行っていたことがあげられます。

例えば、自宅介護は24時間体制で行うものなので、昼間は仕事に出かけ、夜だけ介護するというのは、自宅介護の観点からは当てはまらないものだと言えます。

そのため、「寄与分」として認められるには、勤め先を退職して(専従)見返りを求めずに(無償)介護しなければなりません。

ただし、仕事は辞めていなくても、介護サービスに関する費用を特定の相続人が負担していた分については、「寄与分」として認められます。

相続人が被相続人の資産維持や増加に貢献したか

「寄与分」は、介護に掛かる労力や費用だけに留まらないこともあります。例えば、資産維持に掛かる税金の負担も考慮されます。

これらは、負担した特定の相続人の存在がなければ実現し得なかったことなので、被相続人が残した遺産に対して、この分に相当する費用は「寄与分」として認められることになります。

資産維持に関しては、被相続人が行っていた事業もそこには含まれますが、相続人が「無償」でそれに従事していた場合は「寄与分」として認められます。

「寄与分」を考慮した法定相続分の計算方法

法定相続分の計算

遺産全体から「寄与分」を差し引いて法定相続分を暫定計算する

例えば、被相続人には子供が2人存在していて、彼らが法定相続人であると仮定しましょう。死後において被相続人には5,000万円の遺産が存在していることが分かり、一般の法定相続分から言えば子供2人で2,500万円づつを相続する形になります。

しかし、2人のうち1人が被相続人である親の介護を専従で費用負担して進めており、資産維持のための費用負担なども行っていた場合は、「寄与分」として遺産全体から差し引いて全体の額を調整できます。

つまり、親の介護で必要だった費用は一定の条件の下で、経費として見なされることになるのです。

計算された法定相続分に対して「寄与分」を再追加して最終計算

遺産総額から「寄与分」を控除した額が、全体の法定相続分になります。仮に、「寄与分」が700万円とすれば、4,300万円が法定相続分となるわけです。

これを2分の1に分割すると、1人あたり2,150万円ずつが振り分けられますが、「寄与分」は親の介護を行った子供の法定相続分に加算されます。

つまり、2人の最終的な遺産相続額は2,850万円と2,150万円となります。このようにして、親の介護に対する負担が調整されるのです。
実際の計算事例はこれほど単純ではありませんが、基本的にはこのような計算方法で進めることになります。

疎遠な親族ほど「寄与分」に反対しがち

親族間でも、親の介護に対する意識は不統一なものなので、そのことが相続時におけるトラブルを頻発させる要因にもなっています。

「寄与分」に関するトラブルでよく発生するのが、実家で親の介護をしていた子供以外は、すべて遠く離れた場所で暮らしているパターンです。

この場合、遠くに住んでいる兄弟姉妹が、親の介護事情をよく理解できていないため、特定の相続人に親の介護を任せていたにも関わらず、遺産分割は通常どおりに進めたいと主張することも少なくないのです。
お互いの関係が疎遠であればあるほど、「寄与分」に頑なに反対する傾向があります。

こうしたことを未然に防ぐためには、兄弟姉妹で日頃から連絡を取り合うようにする他はないでしょう。

このように、親の介護をした相続人には、寄与分によって相続額を上乗せすることができます。相続の公平性を保つためにも、必要な制度と言えるでしょう。