「遺書」と「遺言書」という二つの言葉は似ているようにも感じられますが、全く別ものです。それぞれで法律的な制約や効力も異なります。
この二つには、

  • 遺書は「亡くなる前の自分の意思を伝える手紙」
  • 遺言書は「民法で定められた法的効力をもつ文書」

といった違いがあるのです。

それぞれの意味を理解せずに作成すると、思いもよらない結果に繋がる可能性もあります。
そこで、二つの言葉の違いについて詳しく見てみましょう。

遺書と遺言書の根本的な違いを解説

遺書は「亡くなる前の自分の意思を伝える手紙」

遺書とは、自分が死んでしまった後、家族や友人などの大切な人に自分の気持ちを伝えたり、お願いごとをしたりする手紙のようなものです。

また、遺書には法律的な制約は全くないため、様式や内容は自分の自由です。

  • お葬式で流してほしい音楽
  • 残された家族への想い
  • 友人への感謝の気持ち

など、思いの丈を自由に書くことができます。

また、遺書を受け取った側に「書かれている内容を守る法律的な義務」はありません。
遺書の具体例としては、自殺する人が書き残した手紙などが挙げられます。

遺言書は「民法で定められた法的効力をもつ文書」

一方、遺言書とは、作成方法や効力が民法によって細かく規定されている法律文書です。

民法に沿った形で遺書を運用しなければ、

  • 遺言書自体が無効になる
  • 遺言で財産を受け取るはずだった人に罰則が課せられる

などの可能性もあるので注意が必要です。

逆に、民法に従って作成された遺言書であれば法律で保護されるため、それに関わる人たちに義務や権利が発生することになります。

遺書と遺言書の法的効力の違いを解説

女弁護士

遺書には法的効力がない

先述したように、遺書には法律的な制約はないため、書かれている内容に関する権利や義務は発生しません。
つまり、遺書に書いた内容のとおりに残された人たちを従わせることはできませんし、遺書を受け取った人も内容を守る法律的な義務はないということです。

ただし、遺言書としての法的要件を満たしていれば、遺書であっても効力を発揮する場合はあります。

遺言書に法的効力はあるが限られている

一方、遺言書は法的効力をもつ文書ではありますが、書いた内容全てに法律的な権利や義務が発生するわけではありません。
民法によって効力が定められているのは、相続方法や遺贈、後見人の指定などです。

例えば、「誰がどのような財産を相続するか」について記載されている場合は、法的効力が発揮されます。遺言書による指定がない場合は「民法に定められた相続方法」が適用されますが、遺言書を作成することで「民法の規定通りではない相続方法に変更する」ことができるのです。

また、遺言書では、法定相続人以外の人に財産を譲る「遺贈」の指定をすることも可能です。
ただし、遺言書に法的効力をもたせるためには、作成の際にいくつかの要件を満たす必要があります(詳しくは後述)。

こういったことに加えて、遺言書に個人的な感謝の気持ちなどを書くこともできますが、その部分に関しては法的な効力は発生しません。

遺書と遺言書の作り方の違いを解説

遺書の作り方に決まりはない

前述の通り、遺書には法律的な制約がないため、作り方にも特に決まりはありません。
手書きで原稿用紙に書いても、パソコンで書いても、どちらでも大丈夫です。
また文章量や文体の指定もなく、自分の気持ちや希望を自由に書くことができます。

遺言書の作り方は2種類ある

一方、法的な効力が発生する遺言書を作りたい場合は、民法によって定められている要件を満たしている必要があります。
また、遺言書の作り方にはいくつか種類があります。最も用いられているのは「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2つです。

自筆証書遺言は「手書きで作成した遺言」のこと

自筆証書遺言とは、全て自分の手書きで作成した遺言のことです。

自筆証書遺言は、以下のような要件が民法によって細かく定められています。

  1. 全文を自筆する
  2. 日付を正確に記載する
  3. 署名を自筆する
  4. 住所を自筆する
  5. 押印する

そのため、パソコンで作成したものや、ビデオ撮影したものなどは無効となります。
また遺言書が見つかったときは、家庭裁判所で「検認手続」を行う必要があります。検認手続とは、「遺言書が残っていた」ということを認証してもらう手続きのことです。この手続きを行わないと、遺言書の効力は発生しないため注意してください。

このように、自筆証書遺言は、お金をかけることなく自分で作成できる点がメリットです。一方、必要な要件を満たさなければ無効になる場合もあるので注意しましょう。

公正証書遺言は「公証人に作ってもらう遺言」のこと

公正証書遺言

公正証書遺言とは「公証役場にて、公証人※に作ってもらう遺言」のことです。そのため手数料を払う必要はありますが、公文書として作成することができます。
公正証書遺言には、自筆証書遺言と比べると次のようなメリットがあります。
※公証人…公正証書の作成などを行う権利がある、法務大臣に任命された公務員

(1)法的に無効となるリスクを減らせる

公正証書遺言は「公証人」という専門家に作成を依頼します。そのため、細かい要件を満たした遺言書となり、法的に無効になってしまうなどの失敗を防ぐことが可能です。

(2)家族の負担を減らせる

公正証書遺言は公証役場で作成するため、作成と同時に、役所による確認も同時に済ませることができます。そのため、自筆証書遺言で必要となる「検認手続」が不要となり、残された家族の負担を減らすことができるのです。

(3)偽造や紛失の心配を減らせる

公正証書遺言は、公証役場に作成記録が保管されます。そのため、偽造される不安がなくなり、偽造したのではないかと疑われる心配もなくなります。また、遺言書を紛失してしまうリスクもありません。

(4)信憑性が高く手続きがスムーズになる

財産を相続する際は、遺言書を銀行などに提出します。その時、遺言書が「自筆証書遺言」だった場合は本物かどうかを確認することが難しく、手続きが遅れることがあります。一方、「公正証書遺言」の場合は信憑性が高くなり、スムーズに手続きを進められるケースが多いです。

遺言書を作成する3つのメリット

遺言書の作成方法や様式は細かく規定されており、作成に手間がかかるかもしれません。しかし、遺言書を作成するメリットも多いです。

メリット1. 相続手続きの負担を減らせる

一般的に、相続手続きはとても手間のかかるものですが、遺言書を残しておくことで手続きの負担を減らすことができます。
相続争いを起こしそうな人がいる場合でも、遺言書により法的に相続方法を指定しておけば相続手続きがスムーズになるでしょう。つまり、残された家族の負担を減らすことができるのです。

メリット2. 誰にでも財産を譲ることができる

遺言書がない場合、財産を相続する人や割合は、法律で定められた内容に従うことになります。しかし、遺言書を作成しておけば、親族以外の人や団体にも財産を譲ることができるのです。

メリット3. 遺産分割協議をする必要がない

遺言書がない場合は、相続分に関して相続人全員で話し合う「遺産分割協議」を行い、その結果に全員が同意しなければなりません。
しかし遺言書を作成しておけば、手間のかかる遺産分割協議をすることなく財産を譲ることができます。

目的に合わせて遺書と遺言書を使い分けよう

以上のように、遺書と遺言書は全く別ものであるため、自分の目的に応じてどちらを作成するか選ぶ必要があります。

自分の気持ちを伝えるだけであれば遺書で問題ありませんが、財産の相続方法などを指定し、法的な手続きをスムーズに行うためには、遺言書が最適です。ご自身の目的を明確にした上で、2種類の文書を上手く使い分けましょう。