相続時に利用できる信託銀行のサービスには、「遺言信託」、「相続型信託(遺言代用信託)」、「跡継ぎ遺贈型受益者連続型信託」という3つのサービスがあります。

この3つのサービスの内容、メリットとデメリットなどについて、順を追って解説します。

信託銀行の「遺言信託」を使うメリットとデメリット

遺言信託

信託銀行の「遺言信託」のデメリットは「高額」

一般的に、信託銀行の「遺言信託」を利用すると費用が高額になります。
契約料が数十万円、遺言の保管料として毎年一万円弱、遺言執行には基本料数十万円+財産に応じた手数料が発生します。
つまり、信託銀行に「遺言信託」を依頼した場合には、最低でも100万円前後の費用が必要と考えるべきです。

みずほ信託銀行の例を見ると以下のようになっています。(プラン30の場合:2017年4月現在)

<遺言保管にかかる手数料>

基本手数料 324,000円
変更手数料 54,000円
遺言書管理料 年間6,480円

<遺言執行にかかる手数料>

最低報酬額 1,080,000円
財産比例報酬 0.324%〜1.836%(財産の内容と金額による)

司法書士や弁護士などの士業に直接依頼すれば、費用はもっと抑えられるはずです。

また、信託銀行では子の認知などを行えないため、士業に依頼することになり、遺言書作成にも時間がかかる場合があります。

その他のデメリットとしては、相続人同士で争いが起きそうな場合、信託銀行は「遺言信託」を受けないことがあります。また、相続税の申告は別途税理士に依頼する必要があります。

信託銀行の「遺言信託」を利用するメリットは「安心」

遺言書は作成してから執行するまでに数十年かかることもあります。そのため、相続における手続きを司法書士や弁護士などの士業に依頼した場合、遺言を執行する前に士業の方が亡くなってしまう可能性もあります。

その点、法人の金融機関である信託銀行ならば、安心感は大きいでしょう。また、相続資産の運用方法についても相談にのってもらえます。

法律用語の「遺言信託」と信託銀行の「遺言信託」は意味が違う

法律用語における「遺言信託」とは、遺言で設定する信託のことです。
「信託」というのは「信じる人に託す」ということですから、自分の財産を信頼出来る人や組織に託して、託された人が財産を運用し、運用で得た利益を委託者が受け取る仕組みです。

これに対して、信託銀行における「遺言信託」とは、「遺言書の作成の手伝い」、「遺言書の保管」、「遺言書の執行」のことになります。これらは、司法書士や弁護士などが行う「遺産整理業務」と同じ業務です。

法律的に信託銀行が行うことのできない業務については、信託銀行から司法書士や弁護士などに依頼されます。つまり、信託銀行における「遺言信託」とは、「遺産整理業務」のことを意味するのです。

信託銀行の「相続型信託(遺言代用信託)」は家族思いのサービス

信託銀行が、「おもいやり信託」、「ずっと安心信託」などの商品名で売り出している「相続型信託」は、自分が死亡した後に、指定した人が遺産をスムーズに引き出せるようにするサービスです。定期的に一定金額が受取人に渡るように設定することもできますし、自分自身が年金のように定期的に受け取ることもできます。

通常、「相続型信託」の受取人に指定できるのは相続人になる予定の人のみです。ただし、年金型などは他の親族も指定できる場合があるので、詳細は信託銀行に確認してみましょう。相続時に遺留分を侵害しないように設定金額を求められる場合もあるようです。

信託銀行の「相続型信託(遺言代用信託)」を使うメリットとデメリット

相続型信託

「相続型信託」は被相続人の死亡直後から預金を引き出せる

一般的に、被相続人が死亡するとその財産は凍結されます。特定の相続人が勝手に預金を引き出す等のトラブルを防ぐための処置です。口座の凍結は銀行が死亡を知った時点で行いますので、相続人が依頼しなくても銀行側で預金を凍結する場合もあります。

預金を引き出せるのは、遺産分割協議などの手続きがすべて終わり、相続人全員の同意の上で相続する人が決まってからです。
そのため、被相続人が事業を営んでいた場合の当座の資金や、葬儀費用のような多額の出費を捻出できないケースがあります。

「相続型信託」の一番のメリットは、死亡後に相続人が一時金をスムーズに引き出せるように設定できることです。

計画的に受け取れる「相続型信託」は相続人の浪費防止になる

「相続型信託」は、被相続人の死後、指定した相続人の口座に定期的に振り込まれます。。
そうすることで、被相続人は相続人が遺産を浪費することを防げます。また、相続人としても定期的にお金が振り込まれた方が計画的に遺産を利用できて安心でしょう。特に相続人が未成年などの場合には有効と言えます。

また、もし資金に余裕があるのなら、自分を受取人に設定しておき、指定した時期から計画的にお金を受け取ることもできます。年金のように定期的に振り込まれるようにしておけば、老後の不安が軽減されるかもしれません。

「相続型信託」よりも他の預金商品の方が利率は高い?

「相続型信託」は手数料が無料で、元本が保証されるという安心感もあります。
ただし、他の高金利な預金商品に資産を預けたほうが利息をたくさんもらえるかもしれません。選ぶ預金商品によって条件が違うので一概には言えませんが、預ける金額が高額なら利息も1年で数千円の違いが発生し、10年以上預けるなら数万円〜数十万円の差がでることもあります。

なお、「相続型信託」で扱えるのは現金(預金)のみです。土地や株は扱えませんので注意しましょう。

「跡継ぎ遺贈型受益者連続型信託」で事業の引き継ぎがスムーズに

「跡継ぎ遺贈型受益者連続型信託」のサービスを提供している信託銀行もあります。こちらの制度を利用すると民法では認められない「跡継ぎ遺贈(遺言)」が可能になります。

例えば、自社の株式を長男に、長男が死亡したら長男の長男に…と承継することができるようになります。事業の引き継ぎなどに利用されることの多いサービスです。

ただし、中には「自社株承継信託(遺言代用信託)」などの商品名で案内している信託銀行もあります。「相続型信託(遺言代用信託)」と名前が似ていますので、サービス内容と目的を必ず確認しましょう。

信託銀行の相続に関するサービス名はどれも似ているので、最初は混乱するかもしれません。不明な点については信託銀行に直接確認して、もし必要なサービスがあれば利用を検討してみるとよいでしょう。