相続の際に知っておきたい減価償却の意味、減価償却費の計算方法、相続した場合に必要な減価償却方法の届け出などについて、順を追って解説します。

減価償却とは大きな投資を毎年少しずつ費用計上すること

経営者や経理担当者でないと、あまり馴染みのない「減価償却」という言葉。事業を営んでいる方で、大きな投資をする場合には覚えておきたい手続きです。

例えば、4,000万円のマンションを購入して、賃貸収入を得ているとします。4,000万円全てを購入年度に費用として計上すると、収益は4,000万円を上回らなければ大きな赤字となり、その後の年度は利益ばかりが出るため、収支のバランスがおかしくなります。

このような状況を防ぐため、固定資産費用を何年かに分けて配分する手続きを「減価償却」と言い、減価償却する資産を「減価償却資産」と呼びます。

用語の意味がわからなくなったら下記のように考えてみましょう。

  • 減価償却資産=マンション(4,000万円)
  • その年の減価償却費=4,000万円のうち、その年の費用にするもの
  • 減価償却累計額=4000万円から今まで費用に計上した額の合計
  • 未償却残高=4,000万円のうち、まだ費用に計上していない金額

減価償却資産となるのは時間の経過によって価値が減るもの

国税局によると、減価償却資産の対象となるのは「事業などの業務のために用いられる建物、建物附属設備、機械装置、器具備品、車両運搬具など」です。一般的に購入後に時間を経つと価値が下がっていくものに限定されます。

例えば土地などは購入後に価値が減るわけではないので、償却できないのです。

少額の資産や耐用年数が短い資産は減価償却資産にならない

減価償却資産
減価償却資産は、数年に渡って費用計上するのが目的ですので、耐用年数(使用可能年数)が1年未満のものや、取得金額が10万円未満のものは含まれず、取得年度に全て費用計上します。(20万円未満の特例、30万円未満の特例あり)

100年住宅でも22年?法定耐用年数は税法で決まっている

減価償却資産の法定耐用年数は税法で決まっています。建物1つをとっても、目的、構造、新築か中古かによっても法定耐用年数が変わります。

例えば賃貸住宅の用途に供する建物の法定耐用年数は、木造なら22年、鉄筋コンクリートなら47年です。

ここで言う法定耐用年数はあくまで税法上のものですので、ハウスメーカーなどが主張する耐用年数や保証期間とは異なるため注意しましょう。メーカーがいくら100年耐久住宅と謳って販売しても、減価償却上は、耐用年数は木造ならば22年なのです。

一定の金額を償却する「定額法」、一定の率で償却する「定率法」

減価償却費の計算方法には「定額法」と「定率法」があります。
「定額法」は法定耐用年数で均等に償却する方法です。一方、「定率法」は毎年一定の率を償却することにより初年度に一番多く減価償却費を計上し、徐々に減らしていく方法です。一部の資産を除いて、どちらの方法で償却するかを選択できることになっています。「償却率」は耐用年数毎にあらかじめ決まっています。

「定額法」の場合
法令耐用年数が5年の小型自動車を200万円で購入した場合、減価償却は200÷5=40万円です。
たまたま年数が割り切りやすかったので、計算が簡単でしたが、他の年数の場合は、国税局が「償却率」を公表していますので、参考にしてくださいね。

この償却率を用いると、耐用年数が5年の資産は、「0.2%」と定められているので、200万円×0.2=40万円(未償却残高160万円)となります。

「定率法」の場合
定率法の場合、取得金額から減価償却累計額を引いたもの(未償却残高)に償却率をかけて減価償却費を算出します。

1年目 200万円×0.5=100万円(取得金額—減価償却累計額=100万円)
2年目 100万円(未償却残高)×0.5=50万円

定率法は、初期に沢山の費用計上をすることができる利点がありますが、初年度の利益を圧迫してしまうとも言えます。また、一部定率法を選べない資産もあります。

相続した減価償却資産の「減価償却方法」は引き継げないので届け出を

事業を営んでいた被相続人から、減価償却資産を相続することがあります。相続により取得した減価償却資産の減価償却方法は引き継げませんので、新たに届け出が必要となります。

相続によって引き継ぐのは「取得金額」「未償却残高」

相続によって減価償却資産を取得した場合には、被相続人が取得した金額と未償却残高を引き継ぎます。

「減価償却方法」は引き継げないので届け出を

相続開始の日を「相続人が減価償却資産を取得した日」とするので、「取得日」と「減価償却方法」は引き継げません。減価償却方法の届け出をしないと被相続人が生前「定率法」を使用していても、自動的に「定額法」になります。

間違えて申告してしまう可能性がありますので注意しましょう。

税法改正前に取得した資産の場合には計算が複雑になる

平成19年度以前と平成28年度の税法改正によって減価償却方法が大幅に変更されました。計算方法が複雑になっていますので、詳しくは国税局のHPを参考にしてくださいね。

国税局の電話相談窓口もありますので、問い合わせもできます。

被相続人の準確定申告もお忘れなく!

確定申告
被相続人が年の途中で死亡した場合には、1月1日から死亡した日までの税金を相続人が支払わなければいけません。その場合にも減価償却費を計上します。相続した時の未償却残高も変わることに注意しましょう。

被相続人の準確定申告時の減価償却方法には変更なし

被相続人の準確定申告に必要な経費を計算する際の減価償却は、相続より前のものですので、被相続人が生前選択していた方法で計算します。
被相続人が5月に死亡した場合には、1月から5月までの5ヶ月間が該当しますので、死亡した年の償却費×5/12で計算します。

相続によって資産を取得した人は開業や青色申告の準備を

個人事業主以外の方で、相続によって事業を引き継ぐ場合には、個人事業主になるための準備も必要です。開業届や青色承認申請書を忘れずに提出しましょう。
青色承認申請書は、相続によって年の途中で事業を承継した場合には被相続人の死亡の時期によって提出期限が変わりますので注意が必要です。

非相続人が白色申告だったか、青色申告だったかによっても提出期限は変わりますので、青色申告をしたい場合には必ず確認してください。

減価償却時の計算方法は複雑ですが、償却率はあらかじめ決まっていますし、必要事項を入力すれば会計ソフトなどで簡単に計算できますので、あまり気負わなくて大丈夫ですよ。
提出期限や申告期限を一覧などにして整理し、減価償却方法の届け出も忘れずにしましょう。減価償却方法が選択できる資産の場合には定額法と定率法のどちらが良いか比べてみることも大切ですね。

時間がない場合や金額が大きい場合には税理士などのプロに相談することも検討しましょう。