現代では国際結婚が当たり前になり、遺産相続に外国人が関係することも増えてきました。
国籍や所有財産の所在地により適用される法律・税率が異なるなどにより、相続がスムーズに行われないことが多々あります。

相続に関する法律はどこの国のものが適用されるのか

問題となりやすいのは、外国人が相続に関係する際に、どこの国の法律が適用されるのか?という点です。
日本と外国では大きく異なり、アメリカの場合は更に州によって州法が異なるため非常に複雑になることがあります。

相続人の国籍に基づいた法律が適用される

相続が発生した際に被相続人の国籍が海外である場合、基本的には相続人の国籍を持つ国の法律が適用されるため、被相続人の国籍は関係しません。
外国人の父から日本人の子どもが相続をする場合には、日本の法律に則った手続きが行われます。

遺言書がある場合は被相続人が有する国籍の国の法律に適合する形でも、住所地や居住地の法律に適合する形でも有効となります。
遺言書については後述の「外国人が日本で相続を行う際の注意点や対策」で詳しく触れます。

日本人が被相続人で相続人に外国人がいる場合

相続人の国籍が海外にある場合、基本的にはその国の法律が適用されます。
日本人の父からアメリカ国籍のある子どもへの相続を行う場合、子どもが国籍を持つアメリカの州の州法が適用されるような形です。

しかし、相続人の本国法が「適用する法律を被相続人の死亡時の居住地」と定めていることがあります。
この場合は法律の間に矛盾が生じてしまいます。

その為、通則法第41条において「当事者の本国法によるべき場合において、その国の法に従えば日本法によるべきときは、日本法による」と定められています。

これを反致と言い、反致が適用される国としては中国とブラジルが主なものです。
反致が適用された場合は日本法が適用されるため、相続人が外国人でも日本の法律に則った手続きが行われます。

外国人が被相続人になった際の所有財産の所在地による違い

外国人財産
相続においては、相続人の国籍の他に、相続財産の所在地も重要視されます。どこに相続財産が存在するのか、また、不動産・動産の違いによっても法律が異なり、非常に複雑なポイントです。

相続財産が国内にある場合

相続財産が日本にあり、なおかつ相続人が日本人である場合、動産・不動産にかかわらず日本の法律が適用されます。
相続人が中国国籍を所有している場合も同様で、動産・不動産にかかわらず日本の法律に従います。

相続人がアメリカ国籍を所有している場合は、不動産は日本の法律、動産は米国の法律が適用されます。
米国においては統一的な法律が存在していないため、厳密には州法によって処理されます。

韓国国籍を持っている相続人の場合はいずれも韓国の法律に従うこととなります。
このように国と相続財産の種類によって適用される法律が異なるため、相続人の国籍と不動産の種類は非常に重要です。

相続財産が海外にある場合

相続人が日本人で、相続財産の所在地が海外である場合も、動産・不動産の種類や国によって適用される法律が変わります。
韓国はいずれの財産の場合も日本の法律が適用されます。

米国と中国では、動産は日本の法律によって処理が行われますが、不動産は各国の法律に則って手続きが進められます。
この場合も米国には統一的な法律が無いため、所在地の州法が適用されることになります。

相続人が日本人でなく、なおかつ相続財産の所在地も海外である場合は日本に在留していても日本の法律が関係することはありません。
日本国籍がある場合にのみ日本の法律が適用される可能性が発生します。

トラブルが発生しやすい相続税の納付

このように外国人が関係する遺産相続は適用される法律、動産・不動産の種類や所在地によって非常に複雑に変化します。

さらに国際結婚が増えるにつれて相続税についての判例や通達が激増しており、それにともなって相続に関する勘違いやトラブルが多くなっています。
特に配偶者が外国人である場合に多く、妻が夫の相続を知らずに突然相続税を請求されて相談にくるケースが後を絶ちません。

相続財産が海外にあっても相続税が発生する

最も多い「相続税が発生していることに気が付かなかった」というトラブルは近年特に増えています。
その原因は平成25年4月1日に制定された法律にあり、この法律では以下のように定められています。

「日本国内に住所を有しない個人で日本国籍を有しないものが、日本国内に住所を有する者から相続もしくは遺贈または贈与により取得した国外財産を、相続税又は贈与税の課税対象に加える」
簡単に言ってしまうと「自分が日本人でなく、相続財産が海外にある場合でも被相続人が日本人だと相続税がかかる」という内容の法律です。

海外に住んでいる子どもが日本人の親から海外の家を貰った場合も、日本の法律に従って税金がかかるということです。

以前は国外に住んでいる子どもが日本に住んでいる親から国外の財産を相続した場合は、相続税がかかりませんでした。
しかし、この法律が制定されてからは相続税と贈与税がかかるようになったので、ここで大きな勘違いやトラブルが発生しやすくなったのです。

外国人が日本で相続を行う際の注意点や対策

外国人相続

外国人が関係する相続でトラブルを防ぐ為には、やはり遺言書の作成が最も有効です。
しかし遺言書も外国人が関係する場合は形式の問題や効力に関する問題が発生するため、十分に確認しておきましょう。

遺言書をどの国の法律に則って作るか

遺言書は決められた形式でないと効力を発揮せず、遺言書として認めてもらうことができません。
そしてその形式は日本と外国で異なります。

遺言書の作成自体は国籍を有する国の法律の形式でも、現在の生活の拠点や住所がある国の形式でも有効とされています。
日本の法律に則った遺言書でも、自分の国の法律に則った遺言書でも良いということです。
しかし、だからといって遺言書に書いた内容すべてがそのまま希望通り適用されるとは限らないのです。

遺言書が有効とされてもその内容通りにならない

基本的に相続は国籍を有する国に従うものとされていますが、前述した反致や動産・不動産の違いによって外国の法律が適用されることもあります。
つまり遺言書は日本の法律に従って作成できても、相続自体は国籍のある国の法律に従うことになる可能性があるわけです。

反致があれば日本の法律が適用され、更に動産・不動産の違いも絡んできます。
この問題によって遺言書が有効とされる=相続がそのままされるわけではなくなるのです。

これらのトラブルを回避するためには、まず遺言書の作成をいずれかの国の形式に則って適切に行い、適用される法律を理解することが必要です。
その上で法律を守った遺産分配を行えば遺言書の内容通りに遺産を相続させることができます。

相続発生時の在留資格に注意!

意外と見落とされてしまいがちなのが相続発生時の在留資格です。
配偶者が外国人である場合、その人物に相続が発生した際に相続とは別に在留資格の扱いに注意が必要です。

入管法の改正などにより、中長期の在留者は配偶者と死別や離婚をした場合、速やかに届け出をしなくてはいけなくなりました。
加えて、配偶者としての活動を6ヶ月以上継続して行わずに在留している場合、在留資格が取り消されることになりました。

これによって在留資格の変更が必要になることが増え、速やかに行っていないと相続の際に問題となるケースが増えたのです。

相続のごたごたで見落とされてしまいがちな在留資格ですが、外国人の方にとっては非常に重要なものです。
配偶者との関係が変化した際には必ず届け出を行うようにして下さい。