行方不明の相続人がいる状況で遺産分割協議はできない
相続において複数の相続人がいる場合、遺産分割協議をして誰がどの財産をどれだけ相続するかを決めていきます。遺産分割は、法律において相続人全員の同意によって決まるものと定められています。分割協議の席に全員が揃っている必要はないのですが、財産分与は相続人全員の同意がない限り成立しません。
そのため、相続人のうち誰かが行方不明の場合、その相続人を除いた状態で遺産を分割することはできません。もしこの相続人の存在を無視して遺産分割を決めても、その協議は無効とされます。
それでは、こうした場合はどういう手続を行えばよいのでしょうか?
戸籍をだどって行方不明の相続人の居場所をさがす
相続人が全員揃わないと遺産分割ができない以上、行方不明の相続人をさがし出さないといけません。誰ひとり行方不明の相続人との交流がなく、住所も連絡先もわからない場合は、まず戸籍謄本からその相続人の本籍地を確認し、そこから戸籍附票を使って現住所をさがします。
もし見つけることができたら、相続する財産があることを知らせるために、電話をしたり、手紙を送って返事を待ったり、実際に家まで足を運んでみることになります。
そして、遺産分割協議に加わるように伝えるのです。
行方不明の相続人の代わりに不在者財産管理人を立てる
上記の方法で行方不明者をさがし出すことができないと、当分見つかる見込みのない相続人であることが認められます。この場合、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し出ることができます。
不在者財産管理人は、行方不明の相続人の代理として遺産分割協議に出席することになります。これにより、行方不明の相続人が見つからない状態でも、遺産分割協議を進めることができるようになります。
不在者財産管理人が分割協議に参加するには、「不在者財産管理人の権限外交許可」を取る必要があります。
この許可をとることで、遺産分割協議への参加が許されるだけでなく、遺産分割に賛同する権利も与えられるのです。
不在者財産管理人の選定手続きに必要な書類
不在者財産管理人を選定するには、下記の書類を家庭裁判所に提出する必要があります。
- 不在財産管理人選任のための申立書
- 不在者の戸籍謄本と戸籍附票
- 不在の事実などを証明することができる資料
- 申立人の戸籍謄本
- 不在財産管理人となる人の戸籍謄本もしくは住民票
- 利害関係を証明する資料
- 不在者の財産目録
- 不動産の登記簿謄本
上記の書類以外に、申請費用として800円の収入印紙が必要になります。
また、手続きにかかる期間としては、1ヶ月から3ヶ月と若干期間の幅があります。
不在者財産管理人には利害関係のない第三者を選ぶ
行方不明の相続人の親族と連絡が取れる場合、そのうちの誰かが不在者財産管理人になることがよくあります。しかし、そういう立場の人がいない場合、一般的には、相続人全員と利害関係のない第三者を選任するのが原則です。
これは特定の相続人と繋がりのある人物が不在者財産管理人になることで、相続の不公平性が生まれるのを防ぐのが目的です。
まったく無関係な人物だと不安という場合などには、被相続人の友人などが候補として選ばれることが多いです。もし誰も思い当たる候補がいない場合は、家庭裁判所が地域の弁護士会などから相続に詳しい弁護士などを選定することになります。
行方不明になって7年を超えている相続人には「失踪宣告」ができる
不在者財産管理人は、あくまでも相続人が存命であることを前提としています。これに対して、相続人の生存自体の確認が難しいと判断した場合、相続人が法律上は死亡したこととする「失踪宣告」と行うことができます。
失踪宣告をするには、行方不明になって7年以上が経過していることが条件になります。ただし、震災などによって行方不明となった場合は、1年以上消息を絶っていることが条件となります。
失踪宣告が認められると、行方不明の相続人は失踪から7年で(震災などの場合は1年で)死亡したと法律上はみなされます。つまり、その相続人に配偶者や子どもがいれば、相続の権利はその家族に移ります(代襲相続)。
また、失踪宣告の後に相続人の生存が確認されたら、その失踪宣告は取り消されることになります。ただし、生存確認が遺産分割後であれば、他の相続人は行方不明だった相続人分の遺産を返却する必要はありません。
失踪宣告を申し出るのに必要な書類
失踪宣言を申し出るには、下記の書類を家庭裁判所に提出する必要があります。
- 失踪宣告のための申立書
- 不在者の戸籍謄本
- 不在の事実などを証明することができる資料
- 申立人の戸籍謄本
- 利害関係を証明する資料
上記の書類以外に、申請費用として800円の収入印紙と広告料の4,179円が必要になります。
通常、手続きには1年程度の時間がかかります。
困ったときは専門家に相談を!
このように、相続人の中に行方不明者がいると、遺産分割協議を進めることができなくなり、その結果、相続税の申告期限に間に合わず延滞税や加算税を支払うことになる可能性があります。また、相続放棄の申告期限に間に合わなければ、マイナス財産を相続することになるかもしれません。
戸籍をたどる以外にも、警察に捜索依頼を出すなど方法はありますが、行方知れずの人をさがすのは簡単なことではありません。複雑な相続の手続き中であれば尚さらと言えるでしょう。そうしたことのストレスが相続人同士の揉め事に発展することも考えられます。
早期の段階で弁護士や税理士などの専門家に依頼すれば、費用はかかりますが、適切なアドバイスを受けながら相続手続きを進めることができるので、心強いでしょう。ぜひご検討ください。