遺言書とは、被相続人が自分の財産をどのように相続させたいのかを示すために使われる文書です。遺言書の内容は、被相続人の意思として見なされ、法律よりもその内容は優先されます。
被相続人は遺言書を残すことで、相続人同士の揉め事を回避し、自分の希望に沿った相続を進めることが可能になります。

通常の遺言書には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言、の3種類があります。
ここでは、自筆証書遺言と公正証書遺言の違いについて解説したいと思います。

自筆証書遺言は被相続人が自分で書くことが必須

自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、全ての内容を自分で書く遺言のことを言います。もしも「私は字が下手だから…」などの理由で他の人に遺言書を作成もらったりすると、その遺言書は無効になってしまいますので注意しなければなりません。仮に字が下手だとしても、読みやすい字で丁寧に書けば問題はありません。

また、自筆証書遺言はパソコンを使用して書いた場合にも無効になってしまいます。あくまでも自筆で書かれたかが重要になってきます。

自筆証書遺言は費用がかかることはありませんし、いつでも好きな時に書くことができるため、手軽に作成することができます。そのため、自筆証書遺言はよく利用されているわけですが、民法において定められた通りに作成しないと遺言として認めてもらうことができません。作成方法の不備が原因で無効になってしまうというケースも少なくないのです。

自筆証書遺言では日付の記入ミスが多い

自筆証書遺言の作成でよくある間違いは、日付の記入ミスです。もちろん日付に関しても、被相続人が自分で記入をする必要があります。そして、その日付は誰が見てもわかるように記入しなければなりません。例えば、「◯月吉日」などという表現を使うと無効になってしまいます。

作成した遺言書に対して日付を記入するのは、遺言書が複数残されている場合にどの遺言書が最も新しいものなのかを判断するためです。同時に、その遺言を作成した時、被相続人にどのくらいの思考能力があったのかを確認する材料にもなります。

遺言書の署名捺印を忘れずに!

自筆証書遺言において、署名と捺印のミスも多いので注意しましょう。署名は必ずひとりの名前を書いてください。連名だと無効になります。捺印に関しては、認印を使用しても問題はないのですが、遺言書の重要性を考えると、やはり実印を使用するのがより確実です。

訂正をする場合には、一般的な書類を作成する時と同じように、訂正印を使用することになります。遺言書というのは何度か書き直したり、内容を変更したいと思うことがよくあるものです。そのように、文章を加えたり削ったりする場合は、その訂正箇所に訂正印を必ず押さなければなりません。

ただし、この場合も遺言書の重要性を考えるのであれば、もう一度正確に書き直した方がよいでしょう。その際には、日付の記入についても改めて注意をしてください。

このように自筆証書遺言は、すべて自分で作成することができ、好きな時に内容を変えることもできます。内容変更の可能性が常にある遺言において、この利便性の高さは大きいと言えるでしょう。

しかし、自分で保管することになるため、紛失してしまったり、他人に改ざんをされてしまうという可能性もゼロではありません。また、せっかく作成した遺言書が発見されないというケースもあります。

いつでも簡単に取り出せるような場所に保管するわけにはいきませんし、だからといって分かりにくいところに仕舞うと、遺言書自体が発見されないことも考えられます。自筆証書遺言には、こうしたリスクも伴うということを理解しておきましょう。

そして、実際に遺言書が執行されるためには、家庭裁判所の検認手続きが必要となります。そこで遺言書として正式に認められることで、自筆証書遺言は効力をもつことになります。

公正証書遺言とは公証人に作成してもらう遺言書

遺言書の作成

公正証書遺言とは、遺言の内容を公証人に伝え、その内容を文章にまとめてもらう遺言書です。遺言書の内容を正確に確実に実現させたい場合によく利用されます。

公証人とは、公証人法に基づいて法務大臣からの任命を受けた公務員で、全国の公証役場に勤務しています。

体力が減少し、病気などが原因で自分では遺言書を作成できないような場合、自筆証書遺言を残すことは困難になりますが、公正証書遺言であれば残すことができます。
被相続人が公証役場まで出向けないのであれば、公証人に来てもらって遺言書を作成することも可能です。

公正証書遺言は公証人が確実に遺言を作成してくれるので、無効になることは極めてまれです。また、自筆証書遺言と違い、家庭裁判所での手続きも必要ありませんので、相続が始まっても比較的スムーズに手続きをすすめることができます。

自筆証書遺言の場合だと、その遺言書が本物なのか、それとも偽物なのかという争いが起きてしまうことがあります。その点、公正証書遺言は公証人が遺言書の本人確認をしっかりと行った上で、公証役場に保管されるので、紛失したり、第三者によって改ざんされたりするリスクもほとんどありません。

このように公正証書遺言というのは、自筆証書遺言と比較すると信頼性が非常に高く、無効になってしまうリスクをほぼ回避できるため、遺言者が自分の意思を相続人に正しく伝えるのにとても有効な方法だと言えます。

ただし、公正証書遺言に残すことができる内容は、財産処分、子供の認知などといった法律上規定されていることだけになります。
これ以外のことが遺言書に書かれていたとしても、法律的な効力はありません。

公正証書遺言の作成には公証人以外に2人の証人が立ち会う

公正証書遺言を作成したいのであれば、公証役場で公証人に対してどういった内容の遺言を残したいのかを説明することになります。被相続人が公証役場で出向けない場合は、来てもらうことも可能です。

そのとき、2人の証人に見届けてもらう必要があります。証人を自分で準備することができないのであれば、公証役場で紹介をしてもらうことができます。

公正証書遺言の原本は公証役場で保管され、遺言書を作成した人自身はその写しを受け取ることになります。

遺言書に優劣はないが安全なのは公正証書遺言

自筆証書遺言と公正証書遺言は共に、同じ効力をもち優劣があるものではありません。ただし、ここまで説明してきたように、それぞれにメリットとデメリットが存在します。

自筆証書遺言の最大のメリットは、思いついたときに自分で何度も書き換えることができる点です。被相続人が生前のうちであれば、相続に対する考えが変わることはよくあることです。その都度、公証役場へ足を運び遺言書を作成し直すのは大変手間がかかります。

その反面、デメリットは間違った書式で作成してしまい、遺言書自体が無効になってしまう可能性があることと、自分で保管をする必要があるため、紛失や内容改ざんのリスクは拭えません。

公正証書遺言の最大のメリットは、このリスクを100%に近いかたちで回避できることでしょう。公証役場で、2人の証人の立会のもと公証人が作成する公正証書遺言が無効になることはまずありません。この安全性を求めて、公正証書遺言を利用する人が年々増えています。

どちらの遺言方法を選ぶべきかはケースバイケースですが、遺言書の内容を確実に執行したいのであれば、費用や手間はかかりますが、公正証書遺言の方が安心だとは言えるでしょう。