漫画「蟻の王」は最凶のヤンキーが財閥の跡継ぎ候補に!

蟻の王は非常に繊細で美しい絵と、厳選された言葉を使った台詞回しが非常に読みやすく引き込まれる漫画です。
ストーリーも遺産の相続がメインですが、個性的な主人公と彼を取り巻く環境が特殊で緩急に富むのでどんどん読み進めることが出来ます。

「悪」が「悪」を返り討つ相続争いの話

主人公の亜久里史郎はいわゆるワルと言われる人種です。
「亜久里史郎の名前を知らない者はいない」と周囲で言われるほど悪い意味で有名な彼は、喧嘩と破壊をすぐに始める危険人物です。

そんな史郎の元に突然、謎の老人が訪れることで彼の環境が大きく変化し始めます。

史郎はその悪名の高さから常に命を狙われており、彼の部屋は要塞のように武装化されていました。
それなのにも関わらず平然と部屋の中に待ち伏せていた謎の老人は、史郎が財閥グループの頭目の実子であり、正当な後継者としての権利を持つ者だということを伝えます。

老人はこの権利を破棄する承諾書へのサインを求めますが、命令されることを嫌う史郎はそれを拒否。同時に、童話の「長靴をはいた猫」の末っ子が猫を相続した話を持ち出し、老人・根古 長吉(ねこ ちょうきち)を貰い受けると宣言するのです。

財閥グループの六道家には三兄弟がいますが、この三兄弟と史郎の父は血の繋がりがなく、正体の分からない史郎の存在に三兄弟は警戒と不安を強めます。

そして不気味な存在である史郎を抹殺するために、三兄弟がそれぞれ刺客を差し向けたり懸賞金をかけたりと、史郎を追い詰めていきます。

しかし有能な根古の力添えや、持ち前の才覚を発揮して次々と刺客を返り討ちにし、仲間へと引き込んで勢力を増して行く史郎。
その過程でなぜ自分が狙われるのかを知った史郎は、六道家の打倒を誓うのです。

不利な状況で太刀打ちしていく史郎と個性豊かすぎる仲間たち

蜂の王の大きな特徴は非常に美しい絵で、1コマ1コマに無駄がなく緻密に計算された作りになっています。
元々この作品を知っていたわけではないのですが、独特なタイトルと表紙のイラストの美しさに惹かれ、思わず手に取ってしまいました。

蜂の王というタイトルは「組織の頂点に君臨して働き蟻を上手く使う」という六道家のスタンスから来ているものです。

史郎ほどの才能のある人物と強力な仲間がいれば強大な六道家の転覆もできそうですが、相手も多種多様な方法で金に物を言わせて強力な刺客を送り込んできます。
不利な状況で太刀打ちしていく史郎と仲間の奮闘がこの漫画の見所だと思います。
個人的には史郎が気持ち良いくらいのワルなので、その容赦のない行動もスカっとして大好きです。

蟻の王のもう1つの魅力は、根古から始まった「敵を味方に引き入れる」という史郎の才能だと感じています。
襲ってくる刺客にもそれぞれしっかりとした人物像とストーリーがあり、ただのヤラレ役な刺客ばかりではありません。

例えば、マックの店員をしていたいじめられっ子の男、天然キャラでとんでもない言動が目立つ女、盗撮魔など、登場人物にクセと個性が強いのも魅力です。

漫画「死刑囚の遺産」は死刑因が強盗した金の在処を探るサスペンス!

囚人

遺産の相続を題材にした漫画の中でも少し特殊で面白いのが、死刑囚の遺産という漫画です。
タイトルの通り、死刑囚が残した遺産を中心に主人公と、主人公が持つ手がかりを狙った暴力団関係者との攻防がメインのストーリーです。

上下巻だけで完結する短いストーリーですが、多くの謎があり、非常に濃密で読み応えのある内容になっています。

死刑囚の遺産のあらすじ

主人公は酒浸りの毎日を送る落ち目の事件記者、加納。彼が死刑囚の田辺という男に面会するところから始まります。
この田辺という男は強盗殺人の罪で死刑執行を待っている状態ですが、その際に強盗した金額が3億円です。

田辺は強盗した金で豪遊したのち、残りの莫大な金は全て愛人のフィリピン人女性にあげてしまったと加納に話します。

しかしこの話はどうやら嘘であり、田辺は残っている金すべてを何処かに隠しています。
何度も面会をしている加納のことを気に入った田辺は、暗に加納にそのことを伝えていると言うのですが、掴みどころのない性格ゆえになかなかそれに気づきません。
そんな中、突然田辺の死刑が執行され、加納が身元引受人として召還されます。

田辺が残した遺品を整理していると、その中に暗号があることに気が付きます。
残されていた遺書とは違う内容の「本物の遺書」と3億円の行方のヒントを得た加納は、金を狙った暴力団に本格的に狙われることに。
何度も危機を乗り越える加納でしたが、ついに人質を取られてしまいます。

物語の後半では舞台がフィリピンに移り、そこでも田辺が残した暗号や田辺を知る人物とのやり取りが繰り広げられます。
幾度も窮地に追い込まれる加納ですが、漸く田辺が残した遺産の正体にたどり着くことになります。

田辺が伝えたかったこと、残していたものは何だったのか?

遺産がメインとなるストーリーですが、多くの謎や気の抜けない展開がサスペンス漫画としても楽しませてくれます。

すべての登場人物について深く掘り下げられているのが魅力

魅力的
死刑囚の遺産を読み終えて、一番心に残ったのは登場人物たちの様々な心情でした。
お金を中心に話は進んでいきますが、そのお金を取り巻く人間や彼らの織りなす多くの話が本当に深くて、人間味が溢れています。

個人的に好きなのは、主人公よりも死刑囚の田辺で、頭がキレて一癖も二癖もある彼がどんなことを思っていたのだろうか?と考えるだけであっというまに時間が過ぎてしまいます。
物語の冒頭で死亡してしまう人物ですが、最後の最後まで存在感が強く、非常に独特な立ち位置のキャラクターだと思います。

他にも主人公の加納はもちろんですが、彼の回りにいるフィリピン人女性や刑事など、登場人物すべてが深く掘り下げられています。
いわゆる悪役となる暴力団のキャラクターも含めて、不思議と愛着が湧いてしまうようなキャラクターが多いです。

無駄な登場人物がいないので途中で誰が誰なのかわからなくなるということもなく、ストレスなくすっと読めるのもこの漫画の大きな魅力です。

漫画は上下巻だけで完結する長くないストーリーですが、内容が濃いので読み終えた後に大作を読んだような気分に浸ることができます。
終わりも綺麗にまとまっており、伏線の回収し損ねやあれはどうなった?ということがありません。
繰り返し読んでみると、田辺のセリフに「こういう意味だったのか」という発見ができるので、何度読み返しても楽しめる漫画だと思います。

相続を題材にした漫画は「大金に振り回される人間関係」がミソ

紹介した2つの漫画はどちらも遺産の相続を題材にしていますが、全く違った視点からの内容です。
しかし、いずれも共通しているのは「大金を巡った人間同士の攻防」であり、両方を読み返してみると共通する点がいくつも出てきます。

どちらの主人公も遺産を相続できる立場になったことで争いに巻き込まれ、その中で仲間と出会い主人公自信にも変化が訪れます。

メインはお金の話ですが、お金による人間関係、人間同士の争い、人の成長という点も相続を題材にした漫画の大きな魅力なのではないかと思います。
相続を題材にした漫画はお金というよりも、お金に振り回される人間関係こそが一番の見所かもしれません。