遺言書は故人が遺族に対して残す最後のメッセージです。感謝の気持ちもあれば、怒りの気持ちもあるでしょう。最も多い遺言書のトラブルは遺産相続に関するものです。遺産相続では、法定相続よりも遺言書の内容が優先されます。法定相続人がいる場合でも、故人が全くの他人に遺産を渡したいと遺言を残せば、遺留分以外はその遺言が優先されるのです。

このように非常に効力のある遺言書ですが、もし複数出てきたときには、どの遺言書を優先すればよいのでしょうか?

遺言書は日付優先

法律上、遺言書の優先順位は日付を重視します。日付の新しい遺言書が、古い遺言書より優先されます。

ある遺言書に全財産を「Aさんに相続させる」と書かれていて、その翌日の遺言書には「Bさんに全財産を相続させる」と書かれていたとします。1日違いの遺言書なので、「じゃあAさんとBさんに半分ずつ」とはならないのです。

1日違いで全く違う内容に変わっていた場合、日付が新しい遺言書が優先されます。

内容が抵触しない複数の遺言書は?

複数の遺言書がある場合でも、遺言の内容が全く抵触しない内容なら、古い方の遺言も効力があります。

例えば、最初の遺言書では「不動産Aを長男に相続させる」と記載されており、後の遺言書で「不動産Bを次男に相続させる」と記載されていたとします。不動産A、Bが全くの別物であれば、新旧の遺言は実行可能な内容です。

このような場合には、新旧両方の遺言書が有効になります。

有効な遺言書が複数ある場合

遺言書の種類

遺言書の種類

遺言書は大きく分けて3種類あります。

自筆証書遺言

自分で書く遺言書です。

メリット いつでも作成でき費用もかからない
デメリット
パソコンが使えない
記載漏れや押印忘れなどのミスが起きやすい
保管場所が分かりにくい場合、遺族に発見されにくい
家庭裁判所での検認手続きが必要。この場合は費用がかかる

公正証書遺言

作成した遺言書を公正証書として公証役場に保管します。

メリット
記載漏れ、記載ミスなどが起こりにくい
自筆の必要がない(パソコンも可)
公正証書にして公証役場に保管されるので紛失の恐れがない
検認手続きがいらない
デメリット
証人が2人必要
公証役場に出向かなければならない
公証費用がかかる

秘密証書遺言

自筆または代筆(パソコン等も含む)の遺言書を作成して封書に入れ封印します。封印の際の印鑑は遺言書に押印したものと同じ印鑑を使います。証人2人とともに公証役場で封書に公証人、遺言者、証人がそれぞれ署名押印し、自分で保管します。

メリット
自筆する必要がない
遺言内容を生前に自分以外の人に知られることがない
デメリット
証人が2人必要
公証役場に出向く必要があり、費用がかかる
自分で保管するので紛失の恐れがある
遺言者が死亡の際には検認手続きが必要
検認費用がかかる

公正証書遺言も自筆証書遺言も効力には差がありません。もし、公正証書遺言を作成した後に自筆証書遺言書を作成した場合、その自筆証書遺言書に問題がなければ、後日作成された遺言書に効力があります。自筆証書遺言書を作成した後に公正証書遺言書を作成すれば、後日作成された公正証書遺言書に効力があります。

公証役場では、遺言が新たに作成された場合には前回の遺言を無効にする手続きも同時に行われるため、公証役場で保管または署名押印する遺言書は複数になることはありません。

必要項目が抜けている遺言書は無効

遺言書

いくら日付優先といっても、必要項目が抜けている遺言書は無効になります。遺言書が複数出てきたときには、まず無効の遺言書を優先順位から外してしまいます。

自筆遺言書を作成する際の必要項目にはどのようなものがあるのかも一緒にチェックしてみましょう。

自筆遺言書の必要項目

  • タイトルは「遺言書」
  • 「遺言者」は自分の名前

共同遺言は無効です。遺言者は1人と決まっています。また、遺言者は自分名義の財産のみに遺言できます。一方の配偶者がもう一方の配偶者名義の財産についての相続を遺言することはできません。

相続財産の内容と相続人の名前を書く

相続人が複数の場合には、相続人毎に相続させる財産の明細を具体的に記載します。遺産が不動産の場合には、登記簿通りの記載でなければなりません。預金の場合も口座番号などを明記します。

正確な言葉で記載

法定相続人には「相続させる」、それ以外の人には「遺贈する」などといった正式な言葉遣いをする必要があります。「譲る、渡す」など言葉遣いがあいまいな場合、その解釈をめぐってトラブルが起きることがあります。

遺言執行者を定めた方が相続手続きはスムーズ

遺言を実行するためには、不動産や預金の名義変更などの事務手続きが必要になります。その権限者を明記しておくと事務がスムーズに運びます。遺言者が信頼している人物や弁護士などを指名します。遺言執行者は2人以上選任しても構いません。遺言執行の手続きが複雑だったり、相続人の利害が対立したりする場合などには2人以上選任することが多々あります。

財産のこと以外にも気になることがあれば付記可能

よくあるのは婚外子の認知などです。

遺言者の住所氏名を記載し押印

印鑑は、できるだけ実印(印鑑証明付き)が望ましいのですが、実印でなくても構いません。

封書に入れて封印

無効になる遺言書

日付が記載されていない遺言書

紙が新しい、インクや墨の跡が新しいと見た目でわかる場合にも日付のない遺言書は無効です。唯一の遺言書であったとしても、複数の遺言書がある場合でも、日付がなければ無効になります。日付は何年何月何日と明記されなければなりません。最後の日にち部分を吉日などとした場合も無効になります。

全文自筆ではない自筆遺言書

自筆遺言書が有効である条件の1つが全文自筆であることです。一部でも自筆でない部分があればその遺言書は無効になります。署名押印があり、日付も明記されていても、自筆でない部分が一部でも見つかればその遺言書は無効になります。

署名押印されていない遺言書

全文自筆、日付も入った遺言書でも、押印がないものは無効です。印鑑は実印でなくても構いません。しかし、トラブルが起きないためにも実印が望ましいのです。印鑑証明書が添付されていればよりよいでしょう。せっかく押印されていても自筆署名がないものは無効になってしまいます。ただし、名前が旧姓である場合などは、遺言書として有効です。

これ以外にも自筆遺言書には重大な記載間違いや記載漏れがあることが少なくありません。その場合には遺言書が無効になることもあります。

遺言書を作成した方が相続に関するトラブルは少なくなります。一度、遺言書を作成したからには、ことあるごとに見直す必要が出てきます。家族の状況が変わったり、資産に動きが出た場合には、その都度、見直して正確を期すようにしましょう。