親しい方や身内が亡くなった場合、水道光熱費や医療費を支払う義務は相続人に課せられます。
死亡後の大変な時期にスムーズに手続きができるよう、しっかりと基礎知識を把握しておきましょう。

相続人が行う5つの手続きと精算方法

相続人が行う手続きと精算方法は以下の通りです。

  1. 相続の手続きをする義務がある方は、被相続人の死亡後に凍結された通帳の取引明細を取引金融機関に確認しましょう。
  2. 取引先の各社へ死亡の連絡をし、精算方法を確認します。
  3. 未払いの水道光熱費などがある場合は、相続人が支払わなくてはなりません。
  4. 光熱費などの名義変更が必要な場合は名義変更手続きをします。
  5. 死亡手続きが記されている戸籍謄本を準備し、提出を求められた際にスムーズに手続きができるようにしておきましょう。
  6. 生前の医療費の未払いががある場合は、相続人が速やかに支払います。
  7. 相続人が支払った医療費は医療控除の対象になるため、確定申告の際に必要な書類を分類しておきましょう。

銀行口座凍結の理由は「遺族間で揉め事を起こさないため」

生前はクレジットカードや通帳からお金を引き出し、支払うことが可能でも、亡くなってしまうと口座が凍結されてしまうので、口座から現金を引き出して支払うことができなくなってしまいます。
口座が凍結される理由は、死亡後に遺族の一部が勝手に持ち出し、誰の手に渡ったのか揉めないようにするためです。

銀行口座の預貯金は相続財産の対象となり、死亡前に引き出されたのか、死亡後に誰かが勝手に引き出したのかを線引きするため、金融機関は凍結の措置をとるのです。

死亡後の被相続人の預貯金を自由に引き出し、光熱費や医療費の未払い分を支払えると思っていても、そうはできません。

被相続人の口座凍結後、どうしても光熱費や医療費を支払いたい場合は、「払い出し」の手続きをすれば、現金を引き出せるようになります。

ただし、以下の書類が必要です。

  • 凍結した銀行口座の「払い出し」手続きに必要な書類
  • 被相続人の除籍謄本(戸籍謄本)
  • 法定相続人の全員分の戸籍謄本
  • 法定相続人の全員分の同意を記した書類
  • 法定相続人の全員分の印鑑証明書
  • 被相続人の実印
  • 被相続人の銀行印
  • 被相続人の通帳、キャッシュカード
  • 払い出しをする方の身分証明

これらの書類をすべて揃えないと現金が引き出せない仕組になっているため、遺族は心労が重なっている時に大変な思いをしないためにも、光熱費や医療費分の現金を用意しておくと、各種支払いの際はスムーズに手続きができるでしょう。

手続きが大変な場合は弁護士に依頼しよう

手続きを簡潔に行いたい場合は、弁護士に依頼することもできます。
費用がかかりますが金融機関への面倒な手続きを代行してくれるため、銀行口座が凍結されて困っている場合は弁護士への依頼を視野に入れみてはいかがでしょうか。

被相続人が支払う義務のあるものに注意

被相続人の支払い義務

水道、ガス、電気、医療費、固定電話、携帯電話、ケーブルテレビ、NHK受信料、インターネット、クレジットカード、習い事、通信販売 など

通帳からの引き落としだけとは限らず、後払い決済や振込用紙で通信販売の料金が滞納になっている場合も考えられます。

また、通信販売の場合、健康食品やサプリメント、白髪染めや化粧品など、日常使うものやお取り寄せグルメを定期便で購入している場合があります。
メールや郵便で購入した経緯を確認した場合、滞納の通知が来ていないかチェックし、滞納していた場合は事情を説明して、速やかに支払いを済ませます。

スポーツクラブは月額料金制の場合と年払契約など契約内容はさまざまです。
引き落としやクレジット決済の場合、月謝での支払いなどで習い事をしていた場合は死亡したことを伝え、退会手続きをし、滞納分を支払いましょう。

亡くなった人の医療費の支払いや控除について

高額な医療費を支払ったときは「高額療養費」で払い戻しが可能

月の1日から月末までにかかった被相続人の医療費が一定額を超えた場合は払い戻されます。

申請先は「国民健康保険」「教会けんぽ」「健康保険組合」など、健康保険証の発行先になります。

なお、あらかじめ限度額適用認定証を入院時に提示している場合は、支払いをする医療費が自己負担限度額のため、医療費の高額療養費の還付請求の手続きをしなくても大丈夫です。

自己負担限度額は「所得」「年齢」「支給制度の利用回数」で決まる

70歳未満 140,100円、93,000円、44,400円、24,600円……
70歳以上 44,400円、24,600円、15,000円……

上記のように、自己負担限度額は所得や年齢、1年間の高額療養費の支給制度利用回数で異なります。
詳しくは各市町村や病院の窓口へお問い合わせください。

確定申告で医療費控除をすると有利になる

長期間の入院や、入院保険をかけていなかったとき、総所得金額が低い場合は確定申告で医療費控除をした方が有利になるでしょう。
ただし、総所得金額が200万円までの場合に限ります。

支払った医療費の合計金額-(入院保険金+総所得金額の5%)

生前に支払った医療費は「準確定申告」で税額を算出

亡くなる前に被相続人が支払った医療費は、1月1日から死亡した日までの期間の税額を計算するために「準確定申告」で税額を算出しなければなりません。

期間は相続開始から4か月以内です。

相続者は、前年分、本年分の両方を準確定申告するのですが、あくまで被保険者が支払った医療費のみで、死亡後に相続者が支払った医療費は含まれません。

納税の窓口は最寄りの税務署または税理士になります。
詳しい相談は税務署や税理士に相談し、わからないことは専門家に相談してみましょう。

相続放棄をすると債務を支払う義務はなくなる

相続放棄

被相続人に光熱費や医療費などの債務があり、相続人が相続放棄した場合、債務を支払う義務がなくなります。

ただし、被相続人の配偶者が相続放棄したとしても光熱費などの日常に必要な経費は別問題です。

日常家事債務は相続放棄しても支払う義務がある

「日常家事債務」とは日常の家事に関する債務のことで、主に夫婦の共同生活で発生する衣食住に関わる代金のことを指しています。これらの費用は、相続放棄しても支払う義務があります。

日常家事債務の判断は難しい場合がありますが、判断の基準は次の通りです。

  • 借家など夫婦が暮らすための家賃
  • 光熱費など夫婦が暮らすための費用
  • 生活するための購入費
  • 家族の医療費
  • 子どもの教育に関わる費用

事業資金やギャンブルにかけた費用、高額な宝石や洋服など、夫婦で支払う義務のないものは日常家事債務費用から省かれます。

「生活でかかった費用は夫婦の連帯責任で支払う義務があるとみなされる」と覚えておきましょう。

相続放棄の方法は「家庭裁判所で手続き」もしくは「専門家へ依頼」の2つ

相続放棄は「3か月以内に家庭裁判所へ自分で手続きをする方法」と「司法書士などの専門家へ手続きの依頼」をする方法があります。

自分で手続きをする場合は、住民票がある家庭裁判所へ出向き、以下の届け出を提出する必要があります。

  • 相続放棄申述書
  • 印紙800円
  • 亡くなった方の住民票徐票または謄本
  • 郵便切手

提出後、照会書が届きます。
質問に答えて提出すると相続放棄申述受理通知書が届きますので、この書類を債権者に提示して相続放棄を伝えれば手続きは完了します。

弁護士や司法書士などの専門家へ手続きを依頼する場合、相続に関する相談ができるほか、円滑に手続きをしてもらえるため、「相続放棄申請は専門家にきちんとやってもらいたい」という方は、まずは問い合わせ、専門家の意見を聞いてから判断されることをおすすめします。

亡くなった方のさまざまな費用の精算手続きは必要な書類や物が多く、面倒だったり難しかったりするかもしれませんが、事前にしっかりと段階を把握しておくことでだいぶスムーズに手続きを進めることができます。

いざという時に慌てないようにしておきましょう。