親が子どもの将来を考え、子ども名義で銀行口座を開設し預金を行うのは珍しいことではありません。しかしこれがアダとなり、名義預金と見なされたため相続財産として扱われることもよくあります。

相続財産になるのか、贈与に当たるのかは、子ども名義での預金通帳を作成する目的や管理・運用の仕方がポイントとなるようです。

ここでは、「子ども名義での銀行預金は相続財産になるのか?」というテーマに焦点を当て、名義預金と贈与の違いや名義預金と見なされるポイント等について解説します。

理由によって相続財産に該当するかが変わる!

子ども名義の預金であっても、それが単に名義を借りているに過ぎない状態で、実質被相続人が通帳や印鑑を保管しているのであれば、被相続人の預貯金と見なされ相続財産に該当することになります。
しかし、子ども名義の預金が名義預金と見なされ相続財産の対象となるか否かは、預金を子ども名義としている理由によって大きく変わってきます。

親が子どものことを考え、財産を残すために黙って子ども名義の預金通帳を作成し、お金を貯めている人は数多くいますよね。

例えば、預金が子どもの教育資金や結婚費用として使われるのであれば、子どものための預金ということで問題はありませんが、これが税金対策として単に子どもの名義が利用されたのであれば名義預金と見なされ、相続財産の対象となります。

名義預金か判断する5つのポイント

名義預金

1. 預金通帳や印鑑(銀行印)の管理・保管

名義預金かどうかを判断する大きなポイントとして、誰が預金通帳や印鑑を管理・保管しているのかという点が挙げられます。

預貯金の名義人が自分の口座の存在を知ることもなく、預金通帳や印鑑の管理を被相続人が行っていれば、名義預金と判断されます。

また、銀行に届け出した印鑑が被相続人の物と同じ印鑑であった場合も名義預金と判定される可能性が高いので注意が必要です。

2. 贈与税の申告はされているか?

贈与税の申告を行っておくことにより、名義人の預貯金が贈与されたものであるという証拠にもなり、名義預金とは見なされなくなります。

もし贈与税の申告を行っていないと、逆に名義預金と見なされ被相続人の相続財産として扱われる可能性が出てきます。

贈与税の基礎控除が110万円となっており、年間110万円までは課税されないので、この非課税の枠内で毎年贈与を行うと課税されなくなります。

3. 贈与契約書が交わされているか?

贈与契約書は、贈与がなされる双方の合意の下で交わされる契約ですので、これを作成することにより「被相続人から贈与がなされた」という証明になります。

贈与契約書の書き方に関しては、書式は自由で特に決まりはありません。
パソコンでも手書きでも大丈夫ですが、信憑性を出すため特に署名する部分と日付だけは、自署することをおススメします。

4. 預金から発生する利益などは誰が受け取るのか?

預金しておくと利息などの利益が発生することになりますが、それを誰が享受するのかにより元本の所有者を判断することができます。
もし被相続人が享受していれば、名義預金と見なされ相続財産として扱われるようになります。

5. 金銭の受け渡しは振込みがおすすめ

贈与が実際に行われたことを証明する証拠として、金銭の受け渡しを振込みで行うのは有効です。
いつ誰から誰に振込みが行われたのかが通帳の記録に残るので、贈与が行われたという証拠になります。

現金を直接手渡すよりは、証拠として記録に残る振込みによる贈与の方がおすすめですよ。

名義預金は贈与税とは異なり時効がない

贈与税の時効は6年ですが、意図的に申告せずに贈与税を支払わないような場合には、1年間延長され7年となります。

それに対して名義預金は、贈与には当たらないため時効がありません。

贈与と課税制度について

生前贈与

生前に贈与する「生前贈与」と死後効力が発生する「死因贈与」

贈与には、生きているうちに財産を贈与する「生前贈与」と贈与者が亡くなった時点で効力が発生する「死因贈与」があります。

生前贈与は、双方の合意によって成立する契約行為となりますので、被相続人が子ども名義で例え毎年積立てを行っていても、子どもが預金のことを全く知らなければ、民法上の贈与は成立していないことになります。

また死因贈与も生前贈与と同様に双方の合意が必要となり、この事実を証明するためにも贈与契約書の作成が必要となります。

そして死因贈与と類似したものに、「遺贈」と呼ばれる遺書を残す方法があるのですが、これは双方の合意は必要とせず、一方的に意思表示がなされ贈与される点が違います。

また死因贈与は不動産取得税が課税されますが、遺贈の場合は相続と同じような見方をしているので、課税されません。

贈与税における2つの課税制度

贈与税の課税制度には「暦年課税」と「相続時精算課税」の2種類があり、選択が可能となっています。この2つの課税制度は、贈与を受ける人が申告をして納税を果たす義務があります。

(1)まとめて課税される「暦年課税」

暦年課税とは、1年間(1月1日から12月31日まで)に財産の贈与を受けた合計額に対してまとめて課税されるもので、複数の人から贈与があった場合でも、その合計額が課税の対象となります。
また、贈与額が年間110万円までは基礎控除として認められているので、それ以下であれば贈与税がかかりません。

従って贈与税は、110万円を超えた金額に対してかかることになり、税率も金額に応じて10%(200万円以下)から55%(3,000万円超)と大きく変化します。
暦年課税方式では、この非課税枠を利用することにより、毎年110万円以内の贈与であれば、課税されることはありません。

このため、相続税対策として何年にも亘り110万円以内の贈与を行う場合には適していると思われます。

(2)早い段階で財産を子どもへ移行させる「相続時精算課税」

相続時精算課税の制度とは、早い段階で親の財産を子どもへ移行させ、消費の拡大を図ることを目的に設立された制度です。

以前は、65歳以上の父母から20歳以上の推定相続人への贈与に対して適用されていましたが、平成25年度の税制改正(施行日はH27年1月1日より)により制度の適用範囲が拡大され、贈与者が60歳以上の父母または祖父母に、そして受贈者が20歳以上の推定相続人または孫まで広がりました。

この制度を選択すると生前贈与を行った場合には、2,500万円の特別控除額が設定されているので、2,500万円までの贈与に対しては贈与税がかからなくなります。(特別控除額を超えた部分に対しては一律20%の課税)

その代わりに父母が亡くなり相続が発生した際には、相続財産に生前贈与された財産を含めて相続税の申告を行わなければいけないという制度です。

相続時精算課税制度は、例えば父親からの贈与は相続時精算課税を採用し、また母親からの贈与は暦年課税を採用するといったように父母ごとに選択することができ、一度選択してしまうと、暦年贈与に戻ることができなくなるので注意が必要です。

子ども名義の銀行預金を子どもの所有と認めてもらうためには、さまざまな点に注意し、用意をしなければいけません。

情報量が多くて大変かもしれませんが、子どもの将来のため、この記事できちんと内容を理解して、いつかの日のためにお金を貯めておきましょう。