遺言書は封筒に入った単なるメモ用紙ではありません。発見した時点から、正しい行動をとらなければ、罪に問われる可能性があります。たとえ親の遺言書だったとしても、それは同様です。
この記事では、そんな「遺言書」を発見した時、隠匿した場合にどうなるかを詳しく解説していきます。
遺言書を隠匿すると「相続欠格」になってしまう
たとえばあなたが家族の長男だったとして、父親の死後、このような遺言書を発見したらどうしますか?
「財産の8割を次男に相続させる、残りは長男に相続させる」
恐らく、遺言書の内容に納得がいかないことでしょう。遺言書がなければ、話し合いで半分ずつの相続にできるかもしれないと思ってしまうかもしれません。そして、遺言書をどこかに隠すという発想が浮かんでしまうかもしれません。
しかし、遺言書を隠匿してしまった場合、あなたは遺言書に書かれている財産の相続権を失ってしまいます。これを「相続欠格」といいます。
相続人が遺言書を隠匿すると1円も相続できなくなる
万が一遺言書を隠匿してしまうと、その人には相続人となる権利が一切失われます。
「財産の8割を次男に相続させる、残りは長男に相続させる」といった遺言書があったとして、財産が5000万円あったとしましょう。本来であれば長男であるあなたは1000万円を相続する権利を持っています。
しかし、遺言書を隠匿してしまった場合、1円も相続できなくなってしまうのです。
「相続欠格」に関する民法は、相続人の欠格事由として891条に示されていますが、遺言書の隠匿はこのうちの5号に該当します。
「相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者」
遺言書の隠匿はもちろん、偽造や変造を行ったり、破り捨てたりした場合、相続欠格になる可能性があるということです。偽造や変造を行った場合は、相続欠格に該当するどころか、私文書偽造として別の罪に問われ、処罰の対象となってしまいます。
遺言書を隠匿しても相続欠格にはならないケースも
相続人が故意に遺言書を隠匿しても、相続欠格にならないケースもあります。
それに関しては、平成9年1月28日に最高裁で判示されています。
「相続人が相続に関する被相続人の遺言書を破棄又は隠匿した場合において、相続人の右行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、右相続人は、民法891条5号所定の相続欠格者には当たらないものと解するのが相当である」
つまり、相続人の遺言書を破棄したり隠匿したりといった行為が自分の利益のためのものでなければ、相続欠格にはならないとみなされるのです。
例えば、遺言書と気が付かずに遺品と一緒にしまいこんでしまい検認手続きに持っていかなかったり、誤って捨ててしまったりした場合には、相続欠格には該当しないということです。
不当干渉した場合も相続欠格になる
遺言書に関する相続人の欠格事由として、同891条の3号、4号に下記のような記述があります。
「詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者」
「詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者」
つまり、遺言者に不当干渉することで遺言書の内容を故人の遺志と反したものにさせた者、ということになります。
相続人以外の人物が隠匿した場合は相続欠格にはならない
先の例の中で、遺言書の隠匿を行い相続欠格に該当するのは、相続の権利を持っている次男と長男だけになります。
では仮に、あなたが長男で、あなたの配偶者が遺言書の隠匿を行ったとしたらどうなるのでしょうか?
元々、あなたの配偶者には遺産を相続する権利がありません。従って、あなたが隠匿の事実を知っていながらも黙っていたら同罪とみなされますが、隠匿の事実を知らなかった場合は、相続欠格にはなりません。
事例にもよりますが、遺言書通りに相続が行われるのが一般的だといえます。
「遺言書」を見つけた時はどうすればいい?
遺言書を勝手に開封するのは民法の条文違反!
遺言書を発見したからといって、すぐに開封してしまってはいけません。民法の条文に違反することになります。それについては、以下の民法1005条に記載があります。
「前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する。」
このように、たとえ親の遺言書であっても家庭裁判所の検認手続きを受けずに開封した場合、罰金を支払わなければならない可能性があります。
ただし、開封したからといって遺言書の内容が無効になることはありません。遺言書に書かれている通りの遺産相続が行われることになります。
遺言書は押入れやタンスなどにある可能性が高い
故人の遺品整理を行っている時に、偶然遺言書を発見するというケースが多いと思います。
原本が故人の元にある「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」の場合、遺言書が見つかるまで探し続けるしか方法はありません。家の押し入れやタンス、仏壇などに入れられている可能性が高いです。
「公正証書遺言」の場合は、遺言書が公証役場で作成されているため、原本は公証役場に保管されています。そのため、公証役場で遺言書の有無を調査してもらうことができます。どうしても見つからない場合、一度出向いてみるのもよいでしょう。
遺言書を発見したら他の相続人に知らせて大切に保管しよう
あなたが一人きりで、または複数人で遺品整理をしている時などに遺言書を発見した場合、どうすればよいのでしょうか。
親の遺言書だからといって、決して開封しないでください。破ったり紛失したりしないように、大切に保管しておきます。第三者に持ち出されたり改ざんされたりするのを防ぐためにも、鍵のかかった金庫などにしまっておくと良いです。
そして、あなた以外の相続人に遺言書を発見した事実を知らせます。
また、「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」の場合、家庭裁判所で検認手続きを取る必要があります。勝手に開封するのではなく、必ず家庭裁判所を通すようにしてください。
遺言書の効力には期限が設けられていない
財産や遺産を持っている人の死後、すぐに遺言書が見つかるとも限りません。自宅で眠っているのならまだしも、思いもよらないような場所に置かれている可能性もあるからです。
では、仮に、遺言者の死後、相当な年月が経過してから遺言書が発見された場合はどうなるのでしょうか。
実は、遺言書の効力には期限が設けられていません。遺産分配後だったとしても、遺言書の内容が無効になることはないのです。つまり、再分配しなければなりません。
相続人全員が承諾した場合のみ、再分配は行わなくてよいです。
以上が、「遺言書」を隠匿してしまった場合の説明です。
故人の遺志を記した遺言書は大切に扱う必要があります。たとえ故意ではなかったとしても、隠匿したり破棄したりした場合には、のちのち相続人の間でトラブルが起こる可能性があります。
「遺言書があるかもしれない」と思い当たる人は、遺言書の存在を意識して行動してみるのもよいかもしれませんね。