相続は人の死によって開始されるという民法の規定があります。しかし、相続の中には、死亡以外でも相続が開始されることがあるのです。

それは「失踪宣告」と呼ばれる制度です。

被相続人が生死不明と認められてからある一定期間が経過すると、死亡したものとして扱われ、相続が開始されます。

ここでは、この「失踪宣告」について、一見似ている「認定死亡」と併せて詳しくご説明します。

そもそも相続とは?

相続とは、被相続人が死亡することにより、本人が所有していた財産や権利義務を配偶者や子などの相続人が引き継ぐことを言います。

相続は被相続人の死亡によって開始される

民法第882条に 「相続は死亡によって開始する」という規定があります。

つまり、相続は被相続人が亡くなった時点から発生することになり、例え相続に関する手続きが行われなくても、相続自体は始まっていることになります。

被相続人が亡くなった時点とは、厳密に言えば、医師が死亡を確認し、診断書に記載した死亡日時を指します。

失踪宣告〜死亡以外でも相続が開始される場合とは?

行方不明

失踪宣告とは?

失踪宣告とは、ある人の行方が全くわからない場合や、生死不明のまま、ある一定期間を経過すると、法律上死亡したとみなすことのできる制度です。
相続を開始するためには、この失踪宣告の申し立てをする必要があります。

失踪とは「行方や所在が分からない状態が続くこと」を言いますが、民法第30条には「普通失踪」と「特別失踪」の2種類の規定があります。

(1)普通失踪

民法第30条第1項において、不在者の生死が失踪後7年間不明の場合、利害関係人の請求により家庭裁判所が失踪の宣告をすることができると規定されています。

なお利害関係人とは、不在者の配偶者、子、親、保険金受取人など、法律上特別の利害関係を有する者のことを言います。

この制度は、不在者の生死が明らかではないのに、生存者のまま扱うことで相続などの法的処置が進展せず、利害関係人にとって不都合な状況となることを防ぐために期間を定めたものです。

従って家庭裁判所が失踪宣告をする要件として、生死不明の状態が7年間続くことが前提条件となり、利害関係人が申し立てを行うことにより失踪の宣告をすることが可能となります。

また失踪宣告はあくまで利害関係人の申し立てによって行われるもので、決して義務化されているわけではなく、その意思がなければ無理に行う必要はありません。

(2)特別失踪

民法第30条第2項において、戦争に赴いた人や沈没などの船舶の事故に遭遇した人、その他の危難に遭遇した人の生死が、危難が去ってから1年間不明の場合には、普通失踪と同様に、利害関係人の申し立てにより家庭裁判所が失踪宣告をすることができると規定されています。

従って特別失踪の場合には、危難が去ってから1年間が経過し、かつ利害関係人が申し立てをすることが失踪宣告をする要件となります。

普通失踪でも特別失踪でも、家庭裁判所によって失踪宣告がなされ、死亡が確定すると、相続が開始されることになります。

失踪宣告の取消について

民法第32条第1項において、失踪宣告がなされた後に失踪者の生存が判明したり、異なる時点で死亡していたことが判明した場合には、家庭裁判所は、本人または利害関係人の請求に基づき失踪宣告を取り消す旨が明記されています。

また失踪宣告が取り消されることにより、宣告以前の法的関係が復活することになります。

そうなると、一旦相続した財産を返さなければいけなくなります。ただし、既に使ってしまっている分に関しては免除され、手元に残っている分だけを返せばよいことになっています。(民法第32条第2項)

失踪宣告を申し立てる際の手順について

失踪して行方不明となり7年経過すると、利害関係人は失踪宣告を申し立てることができます。(特別失踪の場合は危難が去ってから1年間)

  1. 管轄する家庭裁判所に失踪宣告の申し立てを行う
  2. 家庭裁判所調査官による調査
  3. 裁判所の掲示板や官報などによる公示催告
  4. 失踪宣告の審査結果
  5. 家庭裁判所にて審判書謄本と確定証明書の交付申請
  6. 市町村役場にて失踪届を提出(失踪宣告から10日以内)
  7. 戸籍から除籍(法的に死亡が認められ相続が開始される)

認定死亡とは?

失踪宣告

失踪宣告に似たような制度として、認定死亡があります。

例えば、火災や水難などの事故及び船舶や航空機の事故に巻き込まれ、死亡したことが確実とみられるものの、死体が発見されないため、死亡届を出すことができず、手続きが難航するケースがあります。

このような事態に備えるため、認定死亡という制度があるのです。これは現場の調査にあたった警察署長や海上保安庁などが死亡を認定することにより、戸籍上も死亡扱いとなるのです。

本来なら死体が発見できなければ、医師による死亡診断書が作成できないのですが、この制度により行方不明であっても死亡として処理することができ、相続も開始されることになります。

失踪宣告と認定死亡の違い

失踪宣告の場合は、ある一定期間生死が不明の場合や行方が分からない時に利用できますが、認定死亡の場合は、死亡したことが確実でありながらも死体を発見できないような時に利用できます。

また失踪宣告は、家庭裁判所が決定するのに対し、認定死亡は官公庁が死亡を認定し、それを市町村長に報告することにより、戸籍を死亡扱いとします。

高齢者消除になっても相続は開始されない

また、似たようなケースとして「高齢者消除」があります。
被相続人が死亡しても、死亡届を役場に提出しなければ、被相続人は戸籍上では生きていることになります。

特に所在が不明となっている100歳以上の高齢者が、戸籍上は生存していることになっているが、現実に生存している可能性がほとんどない場合は、死亡と認め、市町村長の職権により戸籍から除籍することができます。この制度は「高齢者消除」と言います。

戸籍に死亡の記載がなされる訳ですから、一見相続が開始されるように思えるのですが、この場合、実は戸籍から除籍されても相続が開始されることはありません。あくまでも便宜上行われる行政処置となります。

失踪宣告は利害関係人の意思で行われるもの

以上のように、失踪宣告は、被相続人の生存が不明の場合、ある一定期間を経て死亡したものと見なすことができる制度です。これによって利害関係人の公正な権利を守ることができます。

ただし、宣言はあくまでも利害関係人の意思で行われるものであり、義務ではありません。

そして、宣言後でも被相続人の生存が確認できた場合は、宣言を無効にできることを覚えておきましょう。