「相続時精算課税」の目的は親から子への贈与をスムーズにすること
例えば、親が90歳で亡くなった時、子が財産を相続する時には60歳を超えていることも多いかと思いますが、もっと早い時期に財産を子へ相続させることを目的とした制度が相続時精算課税制度です。
「生前贈与」という言葉はご存知の方も多いと思いますが、この制度はまさにその「生前贈与」にあたります。
生前贈与をした場合、2,500万円までの贈与であれば贈与税はかかりません。また、この制度は利用するかどうかを選ぶことができます。
相続時には、生前贈与された財産と相続した財産を足した額に相続税がかかることになりますが、例えば相続税が課税されない場合には、生前贈与分の相続税も課税されません。
贈与者の条件は60歳以上であること
贈与者の条件としては、贈与をする年の1月1日現在で、60歳以上であることが必要です。贈与される財産の種類や、贈与する回数についての制限はありません。
贈与を受ける人に必要な条件とは?
贈与を受け取る人は、以下の全てに該当しなくてはなりません。
- 次のいずれかに当てはまる人
ア.贈与を受けた時、日本国内に住所をもっている
イ.贈与を受けた時、日本国内に住所を持っていないが、日本国籍を持ち、贈与をした人、受ける人が今回の贈与から5年以内に日本国内に住所を持っていたことがある
ウ.贈与を受けた時、受けた人が日本国内に住所も日本国籍も持っていないが、贈与した人が日本国内に住所を持っている
- 贈与する人の直系卑属(法律上の子・孫・ひ孫など。姻族は含まれないが、養子は含まれる)で、推定相続人(現状のまま相続開始された場合に、相続権があると考えられる人)である
※親が死亡した場合は子、子が既に死亡している場合は孫など
- 贈与を受けた年の1月1日現在で20歳以上
相続時精算課税贈与の手続き方法
贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、税務署で手続きします。
必要書類は以下の通りです。
- 贈与税の申告書
- 相続時精算課税選択届出書
- 登記事項証明書
- 住民票の写し
※期限内に提出しないと、その年の分は適用されなくなってしまいます。
※贈与された財産の価額が特別控除の範囲内の額で、贈与税納付の必要がなくとも申告書の提出は必要です。どのような場合でも必ず申告しましょう。(1と2の書類は、国税庁のHPからダウンロード可能です)
相続時精算課税贈与のメリットは?
2500万円までであれば無税で贈与ができる
前述した通り、相続時に相続税がかかる可能性もありますが、生前贈与された時点では、2500万円までは無税です。(2500万を超えると、20%の贈与税がかかります)
将来値上がりする可能性が高い財産は相続税対策の有効な手段
将来、値上がりする可能性が高い財産の場合、そのまま持ち続けていると相続税が増えてしまうため、早めに贈与しておいた方が良いでしょう。値上がりした分を節税することができます。
収益物件を贈与する場合は、相続税対策になる可能性が高い
収益がある物件(マンション等)を贈与した場合、贈与後の収益は受け取った人の収入になり、贈与した人の財産の増加を抑えることができるので、相続税の対策になることが多いようです。
居住用住宅の生前贈与は財産の評価額が低くなります
贈与する人が所有する居住用住宅は、生前に贈与することによって、その評価額を低くすることができるので、相続税の対策に有効なようです。
相続時精算課税贈与にデメリットは?
1度適用されたら取り消せない
「相続時精算課税制度選択届書」を1度提出してしまったら、それを撤回することはできません。
毎年110万円まで非課税の暦年贈与が使えなくなる。
また、制度を適用した贈与者からの贈与には、暦年贈与(毎年110万円が非課税となります)の制度は使えませんので注意が必要です。別の贈与者からの贈与には、暦年贈与制度を使うことができます。
相続税法の改正があった場合、不利になってしまう可能性がある
将来、相続税の改正があった場合、この制度を選択することで不利益になってしまう可能性もあります。現行の制度では、メリットが多い制度ではあるものの、今後税制改正の内容によっては、デメリット面が大きくなってしまう可能性も否定できません。
「小規模宅地等の特例」との併用はできない
この制度を適用して土地を贈与された場合、「小規模宅地等の特例」は適用ができなくなります。
小規模宅地等の特例とは?
亡くなった人と生活をともにしていた家族(=同一生計親族)の事業や居住用の宅地について、一定の条件を満たしていれば、その宅地の評価額を80%減額してもらえる、というものです。
日常的に事業や居住用に使っている宅地に多額の相続税がかかってしまっては、その後の遺族の生活に大きな支障が出てくるため、それを防ぐ目的で作られた制度です。
相続する時に、相続税がかかる可能性がある
贈与された時には、贈与税が無税でも、相続する時には相続税がかかる可能性があります。この制度を利用した場合、生前贈与は2500万円まで贈与税がかかりませんが、贈与した金額は相続時に加算されます。そのため、相続税がかかる可能性があるのです。
生前贈与された財産は物納できない
この制度を利用して生前贈与を受けた財産(土地・建物など)は、物納することができません。本来、土地・建物を相続した場合には、その財産を使って相続税を支払うこと(物納)が認められています。しかし、この制度を利用して生前贈与された財産については、物納が認められていないのです。
贈与税以外の税金がかかることがある
生前贈与した場合、様々なコストが多くかかってしまうこともあるようです。
例えば、相続時に不動産を取得した時には、0.4%である登録免許税ですが、生前贈与の場合は2.0%かかります。さらに不動産取得税もかかってくるため、贈与税を抑えることはできても、他のところでコストがかかってきます。
この相続時精算課税贈与を適用した場合、出てくるメリット・デメリットは「ケース・バイ・ケース」と言えるでしょう。もしも、この制度を利用することを考えていらっしゃるのであれば、一旦申請してしまったら取り消すことはできませんから、よく検討する必要があるでしょう。