「遺産の預貯金が使い込まれていた…」
「遺産であるはずの預貯金を確認したら残高がなかった…」
相続に関する相談で多いものが、このような預貯金の使い込みに関する相談です。
特に多いのは、親が亡くなった後、他の兄弟が親と同居していた兄弟に対して「親の預貯金を使い込んでいたのでは…」と疑いを持つケースです。
使い込みの疑いがある、もしくは判明した場合、どのように対処すれば良いのでしょうか。
2つの手順を解説します。
1. まずは弁護士に相談してしっかり証拠をおさえる!
家族間の話し合いをして解決するのであればそれが一番ですが、徹底して調査を行い、しっかりと証拠をおさえた上で問題を解決したい場合は、やはり弁護士に相談する方が良いでしょう。
弁護士に相談することで、相手との正しいやり取りの方法や、相手が後で言い逃れできないようにする責任追及の方法など、あなたにとって有益な手段を教えてもらうことができるでしょう。
また、使い込みを裏付ける証拠を集める場合に、複数の金融機関に預貯金があり事務手続きに時間がかかったり、仕事などで金融機関に足を運ぶことが難しい場合などは、弁護士が依頼者に代わって金融機関から通帳履歴を取り寄せることも可能です。
2. 証拠を集めて預貯金の使い込みを裏付ける
いくら他の相続人の使い込みを疑ったとしても、証拠がないことには解決は図れません。訴訟を起こす場合でも、責任追及するために使い込みを裏付ける証拠が必要となります。
準備すべき資料としては次のようなものがあげられます。
通帳の入出金履歴を取り寄せる
亡くなった被相続人の預金口座においては、金融機関に照会をかければ過去10年(金融機関によっては過去5年)から現在に至るまでの入出金履歴を取り寄せることができます。この場合、被相続人との関係がわかる戸籍謄本などの資料が必要です。
通帳印鑑の管理状況を明らかにする
預金の使い込みが疑われる期間に、通帳や銀行届出印、実印などの印鑑がどのように管理されていたのか、明らかにする必要があります。
例えば相続人のうち誰か1人が通帳や印鑑を全て管理していたのか、被相続人が管理していたとしても他の人が誰でも持ち出せる状況になかったか、といった点を確認しましょう。
被相続人の経済状況や生活状況を確認する
年金記録や確定申告書などから、被相続人の生前の生活費や収入状況、所有財産を明らかにします。
また、契約書などをもとに賃貸物件と持ち家のどちらに住んでいたのか、あるいは老人ホームなどの施設に入所していたのかを確認したり、親族と同居していたのかどうかも調べましょう。
被相続人の診断書・介護記録・認知能力を示すカルテなど
例えば被相続人が認知症であった場合、被相続人本人の判断で預金を引き出すことができなかったという証拠になります。
戸籍謄本
当然ながら自分が相続人であることの証明も必要です。
相続前の使い込みが発覚!3つの言い分ごとに対処法を紹介
使い込みの疑いをかけられた相続人が、自ら使い込みを認めるというケースは極めて稀です。もし認めた場合は、遺産分割調停によって公平に遺産分割を行うことが可能でしょう。
しかし、相続前の使い込みが疑われる場合、疑いをかけられた相手は被相続人の生活費に使った、被相続人にもらった、覚えていない、などという言い分を主張することが想定されます。それでは、これらの代表的な言い分ごとに対処法をご紹介します。
言い分1「被相続人のために使った」
相手が「被相続人の生活費や債務の返済にあてた」などといった主張をした場合は、被相続人の当時の生活費や経済状況を調べ上げ、合理的に説明できるかどうかを判断します。
そして、説明できない支出に対しては、相手に対してひとつずつ客観的な裏付けと共に説明するように求めます。この時、相手が合理的に説明できない支出があれば、それは相手が私的に流用したものであると推測されるため、そのことを主張し、立証していきます。
言い分2「生前贈与を受けた」
相手が被相続人から生前贈与を受けた旨の主張をする場合は、まず被相続人との間に贈与契約があったことを証明する書面や証拠を提示するように求めます。贈与をした証拠がなく、相手の相続人のみに生前贈与をしていたことが不自然とみなされる場合は生前贈与を受けたという言い分は認められません。
生前贈与の証拠がない場合は、この財産の贈与は特別受益にあたり、一旦相続財産に含めた上で分配し直すべきである、という主張をすることができます。
言い分3「身に覚えがない」
身に覚えがないなどといった主張をする場合、誰が被相続人の預貯金を管理していたのかが重要です。仮に被相続人などが認知症を理由に預貯金を管理できておらず、相手の相続人が通帳や印鑑を管理していたのであれば、それは不自然な主張とみなされます。
相手の相続人が被相続人の預貯金を管理していたことが明らかな場合は、不当利得返還請求または不法行為に基づく損害賠償請求の訴えを検討すべきでしょう。
相続後の使い込みが発覚したら口座を凍結!
相続後の使い込みが発覚した、もしくはそれが疑われる場合は、まず被相続人の財産を凍結しましょう。基本的に預貯金については、本来名義人が亡くなった時点で凍結する必要があります。凍結の手続きは簡単な場合が多く、電話受付のみで対応してくれる銀行もあります。
なお、凍結手続きを行う際には、通帳への記帳を済ませておくようにしましょう。
凍結前に使い込みをされていた場合は、訴訟を起こすことも可能です。
被相続人の預金は、遺言がなければ被相続人が亡くなった時点で自動的に法定相続人に分割されることになります。そのため、法定相続人が自分の法定相続分を超過する金額を預金から引き出すと横領になります。
従って預金を引き出された他の法定相続人は、不法行為または不当利得を理由として損害賠償請求や不当利得返還請求の訴訟を起こすことができるでしょう。
ただし、「預金を与える」旨の遺言があり、預金を引き出している相続人が遺言執行者に指定されているのであれば、預金を引き出している相続人は遺言執行のために自分に預金を移していることになり、争うことが難しくなってきます。この場合は地方裁判所に「預金の使い込みを争う訴訟」と「遺言を無効とする訴え」を合わせて提起することになります。
最悪のケースを避けるためにも財産の管理をきちんと行いましょう
ここまで遺産の使い込みへの対処法をご紹介してきましたが、これらの対処法を持ってしても解決が図れない最悪のケースもあるでしょう。
例えば預貯金がもう残っていなかったり、相手に回収できる財産が全くない場合です。財産はなくとも相続により取得した不動産などがある場合は、それらを差し押さえて回収したり、相手との交渉により分割で支払いをさせる方法も考えられます。
しかし、相手に全く財産がなかったり支払い能力が無い場合は回収を諦めざるを得ないこともあるのです。このような事態にならないためにも、生前から被相続人と同居している相続人の財産をしっかり分けておく、相続財産の内容を明確にしておく、といったことが重要です。
また、遺産の使い込みへの対処法として、訴訟を起こすのか調停により解決を図るのかは、相続人同士の関係性や金額、証拠の有無などをもとに判断をする必要があります。まずは弁護士に相談して、最も適切な対処法を一緒に探しましょう。