経営承継円滑化法を上手に活用することで、相続税をはじめとする事業継承に関わる出費を抑え、企業の持つ財産を守り、将来の経営に繋げることができます。

適用条件は、継承時の経営状態などに合わせてかなり細分化されておりますので、どの特例や措置が適用されるかを見分けることが大切です。

経営承継円滑化法って一体なに?

「経営承継円滑化法」とは事業継承が上手くいかず、経営難に陥ってしまう中小企業が増えていることを受け、経済産業省により考案された支援策です。

この法案には事業財産にかかる相続税の負担を軽減すること、相続する際の遺産分割をスムーズに行うこと、増加する資金需要に対応することが盛り込まれており、「相続税の課税の特例」、「民法の遺留分に関する特例」、「金融支援措置」の3つからなっています。

経営承継円滑化法の対象は?

経営承継円滑化法の対象となるのは「中小企業」であり、中小企業基本法において、以下のように定められています。

資本金
小売業、サービス業 5000万円以下
卸売業 1億円以下
製造業、その他の企業 3億円以下
従業員数
小売業 50人以下
サービス業、卸売業 100人以下
製造業、その他の企業 300人以下

「資本金」「従業員数」において上記の条件のいずれか、もしくは両方該当する場合は経営承継円滑化法の対象となります。

相続税の課税の特例

事業継承に伴う経済的負担を減らすための特例です。

具体的には、被相続人の会社の株式や事業財産などを後継者が相続した際、相続した議決権株式などの80%にあたる相続税の納税が猶予されます。

適用の条件とは?

旧代表者に求められる条件
元代表者、もしくは現代表者であること
筆頭株主であること
後継者に求められる条件
自社株を贈与される際、後継者が経営者であること
贈与される前、決議権株式の過半数を所有していること

以上が基本的な条件となります。

上記に加えて、経済産業大臣の認可を受ける必要がありますが、これには例外規定が存在します。

例えば、代表者が被相続人の親族で、被相続人が60歳未満で亡くなった場合、代表者が被相続人の親族で死亡する前に役員であった場合、死亡直前に所有していた株式と公正証書の遺言により得た株式の合計が議決権の過半数である場合、などが該当します。

対象外の企業とは?

「相続税の課税の特例」の適用条件に該当する場合でも、以下の企業は対象外となりますのでご注意ください。

  • 有価証券や不動産などが会社の資産総額の70%以上である企業
  • 企業収入が主に資産有用によるもので、総収入の70%以上である企業
  • 従業員数が0人である企業
  • 資産が70%以上現物出資による企業
  • 風俗営業している、もしくは子会社などが風俗経営をしている企業

相続税の免除について

以下の条件に該当する場合は相続税が免除されます。

*特例適用株式などを経営継承した相続人が死亡まで保有した場合
*相続税の申告期限から5年経過し、特例適用株式を保有しており、以下の条件のいずれかに該当する場合

  • 破産手続き決定、特別計算命令があった場合
  • 次の後継者に特定適用株式を贈与し、贈与税の納税適用制度を適用する場合
  • 特例適用株式などを同族関係者以外に譲渡した際、猶予納税額が時価または譲渡時の株価を上回る場合その差額が免除される

なお、納税免除を受けるためには、経済産業大臣の認定有効期間である5年の間は毎年、有効期間後は3年に1度の届出が必要です。

民法の遺留分に関する特例

遺留分

後継者の「遺留分」に関する特例で、株式や不動産などの事業用資産が、遺留分であることを理由に、後継者に十分渡らないという事態を防ぐことができます。

遺留分とは、遺産分割をする際に最低限の資産を相続することができる権利のことで、配偶者や直系尊属の父母、祖父母などが対象です。

この特例が適用されると課税される相続税が異なる場合があるので、合わせてチェックしておきたい特例です。

遺留分算定基礎財産から贈与株式などを外すことができる

事業継承をスムーズにするために、贈与された株式などは遺留分から外すことができます。

例えば、相続人が長男、次男、三男のみで後継者が長男、資産総額が10億円、その内の5億円が自社株、この株は3年前に贈与されたとします。
通常の相続だと、贈与された5億円分の株も遺留分を算出する際の財産に含まれます。

つまり、長男には10億円×法定相続分の1/3=3.3億円しか残らず、次男と三男にはそれぞれ資産総額の1/3である3.3億円、合計6.6億円を支払わなければなりません。

しかし、特例が適用されますと贈与された株を遺留分の算出から外すことができます。

この例ですと、次男と三男には遺留分として(10億円-贈与された5億円の自社株)×法定相続分1/3=およそ1.7億円が渡ります。

そして、長男には遺留分の1.7億円+贈与された5億円の自社株=6.7億円が取り分となります。

このように「民法の遺留分に関する特例」を適用することで、事業用の資産を守り、今後の事業運営に活用することができるのです。

贈与株式などの評価額は、前もって固定することができる

自社株を贈与した時の評価額で、相続財産を計算することができます。

例えば、贈与時に5万円だった株価が相続財産を計算する際には10万円に上がっていたとしても、贈与当時の5万円で相続財産を計算することができるということです。

適用の条件とは?

「民法の遺留分に関する特例」が適用されるには、いくつかの条件を満たす必要があります。

旧代表者に求められる条件
元代表者、もしくは現代表者であること
推定相続人に株式を贈与したこと
後継者に求められる条件
自社株を贈与される際、後継者が経営者であること
旧代表者の推定相続人であること
贈与される前、決議兼株式の過半数を所有していること
旧代表者から贈与されること

以上の条件を満たした上で、遺留分の算定基礎財産から生前贈与された自社株などを外すことに全員が同意し書類を作成します。

そして、経済産業大臣の確認を取り、家庭裁判所へ許可を申請することで特例が適用されます。

金融支援措置

金融支援措置

事業相続をする際、贈与税や相続税などの納税をはじめ、親族外継承の株の買取、その他事業用資産の買取などを行わなければならず、経済的に大きな負担を背負ってしまう中小企業は少なくありません。

そして、資金調達がスムーズにできない場合は、倒産してしまう企業もあります。
そうした状況を少しでも改善するべく制定されたのが「金融支援措置」です。

中小企業信用保険法の特例

この特例は、中小企業や中小企業の代表者に金融支援措置を行うのが目的です。信用保証協会の保証を拡大することで、事業継承に必要な借り入れをしやすくします。

中小企業信用保険法に定められた限度額2億円の「普通保険」、限度額8,000万円の「無担保保険」、限度額1,250万円の「特別小口保険」を別枠化することで、債務保証も別枠化されます。
当該債務保険を受けることにより、従来に比べ資金調達しやすくなるというメリットがあります。

(株)日本政策金融公庫法などの特例

中小企業の代表者が、国民生活金融公庫や中小企業金融公庫から融資を受けることができるようにすることで、資金調達をしやすくします。

適用の対象とは?

「金融支援措置」の対象となるのは、経済産業大臣の認定を受けた中小企業者です。

このように、相続税を抑えて継承をスムーズに行い企業を安定させるためには、現経営者が後継者をきちんと決め、財産を計画的に譲渡していくことが不可欠です。

その上で、経営承継円滑化法の「相続税の課税の特例」、「民法の遺留分に関する特例」、「金融支援措置」を上手に活用しましょう。